【はじめに】
機能的足底板(以下,FOI)は,最も自然な足の状態を維持し,外傷に繋がる力学的ストレスを抑える事を目的として作成され,整形疾患やスポーツ選手に対して多く使用されている.しかし,中枢神経疾患に対して使用した報告は少ない.そこで今回,その有用性を検討するために,脳卒中片麻痺患者の足部にFOIを装着し,椅子からの立ち上がり(以下,起立)・着座動作における下肢荷重量の変化を測定・検討した.
【対象】
脳出血による左片麻痺を呈した患者である.発症から約2ヶ月経過しており,下肢Brunnstrom stageIV,感覚は表在,深部共に異常,麻痺側足部は低緊張状態であった.
【方法】
被験者の足底に合わせたFOIを作成し,裸足,FOI,AFO,AFO+FOI装着の4条件下で起立・着座動作における非麻痺側と麻痺側の荷重量を計測した.各々数回動作練習し,その後の1回を計測に用いた.また,椅子の高さは被験者の足底から膝関節裂隙までの高さとし,座位姿勢,足幅等は特に規定せず,普段行っているような自然起立・着座動作を計測した.荷重量の測定は日立機電社製エチュードボーを用い,サンプリング周波数100Hzで計測を実施した.得られたデータから
力積
を算出し,各条件下での麻痺側の
力積
,
力積
比(麻痺側下肢
力積
/両下肢
力積
)を求め,比較・検討した.麻痺側の
力積
については正規化したものを用いた.また,
FOI,AFOの重量は減じて
力積
を算出した.
【結果】
起立動作において,麻痺側の
力積
,
力積
比ともに裸足時と比べ,他の3条件で高い数値を示し,特にAFO+SLB装着時に荷重支持が最も良かった(裸足,FOI,AFO,FOI+AFO装着時の
力積
は各々175.03,
199.08,190.29,228.20〔N・s〕,
力積
比は各々0.34,0.38,0.36,0.44).着座動作では,AFO装着時,FOI+AFO装着時に高い数値を示した(裸足,FOI,AFO,FOI+AFO装着時の
力積
は各々119.30,118.46,150.22,143.91〔N・s〕,
力積
比は各々0.24,
0.24,0.31,0.31).
【考察】
FOIを装着することで,起立動作において麻痺側へ荷重を促せる可能性が示され,FOIは整形疾患やスポーツ選手に限らず中枢神経疾患に対しても有用である可能性が示唆された.また臨床では,麻痺側への荷重を促すために,ハンドリングを行ったり,視覚的フィードバックを用いたりしているが,訓練場面に限定され,それ以外の日常生活では有効に荷重を促せないでいる.しかし本研究より,FOIを装着することで,より簡単に麻痺側へ荷重を促せる可能性が示唆された.このことから,その他日常生活動作においても効果的に荷重を促せる事が予想でき,更には非麻痺側に偏位しているアライメントを改善できる可能性もあると思われる.今後は症例数を増やしていき検討を重ねていきたい.
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