目的 国民健康•栄養調査(国民調査と略す),医学会の診断基準(学会基準と略す),特定健康診査および特定保健指導(特定保健指導と略す),労災保険二次健康診断(労災二次健診と略す)はメタボリックシンドローム(Mets と略す)および心•脳血管疾患などの予防対策として実施されているが,目的•対象者•判定基準•該当者区分は異なっている。本研究では各判定基準による該当者の選定状況の差異および基準項目による影響を検討した。
方法 調査対象は大阪府内の某総合大学における教員と事務員(男性769人•女性415人)であった。2008年度の定期健康診断結果について性•年齢(40歳未満•以上)別に区分し,次に学会基準の「MetS(学会基準)」,国民調査の「MetS が強く疑われる者」,特定保健指導の「積極的支援レベル」,労災二次健診の「該当する」を新たに有病者群と該当区分し,同様に「予備群(学会基準)」,「MetS の予備群と考えられる者」,「動機付け支援レベル」を有病予備群と該当区分した。さらに性•年齢•該当区分別に有病者群および有病予備群割合を判定基準間で比較した。また基準項目や基準値の相違が該当者割合に及ぼす影響について検討した。
結果 有病者群および有病予備群における該当者割合は判定基準間で有意な差を認めた。両群における同割合は男性が女性に比し高く,ともに40歳以上で高かった。また,特定保健指導よる該当者割合を現行と BMI 項目の除外した場合とを比較すると,男性において殆ど減少せず,女性において有病者群および40歳以上の有病予備群は減少傾向を示した。さらに,特定保健指導における基準値を110 mg/dL 以上として血糖境界域レベル以上群を算出すると現行に比し境界域レベル以上群の有病者群割合は減少傾向を示し,有病予備群割合は増加傾向を示した。一方,男性40歳未満および女性において基準変更により著変はなかった。
結論 本研究により判定基準による選出状況の差異が明らかにあると考えられた。判定基準項目や基準値の相違による該当者割合への影響に関して,血糖値レベルは学会基準では110 mg/dL 以上,特定保健指導では100 mg/dL 以上であり,この基準値の相違が,男性40歳以上における両基準間の差に大きく関与したと考えられた。血圧レベルは労災二次健診では他基準に比し高く設定され,さらに BMI•血圧•血糖•脂質の全項目を充足する判定基準が,該当者割合の著しい減少の主因と推察された。今後,精度の高い Mets の実態把握には各基準の目的に基づく該当者割合を継続的に検証する必要あると考えられた。また該当者の著明な性差や男性40歳未満の増加により,女性の腹囲基準および対象年齢の再設定も課題と考えられた。
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