【目的】
中学校新学習指導要領(平成29年告示)技術・家庭家庭分野では、「衣服の選択と手入れ」の知識及び技能の項目で、その内容の取扱いとして「日本の伝統的な衣服である和服について触れること」と明記された。現行指導要領にある「和服の基本的な着装を扱うこともできる」は継続されている。中学高等学校では、着物の一つである「浴衣」の着装やそれに関する先行研究により、その授業効果は明らかとなっている。しかし学校教育で意図的に着物文化継承の機会を設けるにあたって、伝統的な衣服である和服として扱うのが「浴衣」だけで良いのだろうか。家庭科の教科書でも人生の節目に着る衣服として「浴衣」ではなく「振り袖や小紋などの着物」が掲載されている。
本研究は、新学習指導要領に照らして、日本の伝統的な衣服である和服として「浴衣」ではなく、「小紋などの着物(本研究ではこれを「着物」と表記する)」を扱うことの意義を明らかにし、小紋の着装体験を通した学校での指導について検討することを目的とする。
【方法】
1.「小紋などの着物(以下「着物」)」の家庭科教科書への記載状況を明らかにする。
2.「浴衣」及び「着物」の授業実践の状況を把握する。
3.1,2より高校生を想定した「着物」の着装授業を構想し、大学1年生に実施して授業効果を検証する。授業前後に、
「浴衣」や「着物」に対する興味・関心、意識について質問紙調査し、授業実践は、DVD1台・カメラ2台・記録者3名に
より記録した。
実施日:平成29年11月 50分2コマ続きを想定して行った。
対象:大学1年生 女子41名、男子1名 うち、事前事後調査と着装授業全てに参加した女子40名を分析の対象とした。
授業者:授業者1名に補佐3名で実施。補佐役には予め着付けを習得させ、講師として紹介した。
内容:小紋・長襦袢・
半幅帯
・帯締めを21セット(帯締め以外はレンタルを利用)、足袋代わりの白ソックスを用意し、ペ
アで交互に着付けを行った。授業者が自作ビデオを用いて全体説明を行った後、長襦袢を着させ、講師と4名で机間
指導にあたった。着装したあとは、歩いてみたり、正座したりするなどの活動を加えた。
【結果・考察】
質問紙調査の結果、「着物」と「浴衣」の違いについてどのように意識しているかについては、「着物」は「生地がしっかりして、刺繍が綺麗」、「長襦袢を着るため重量感がある」、「正装で行事の時に着る」、それに対して「浴衣」は「着付けが簡単」「薄くて涼しい」「夏に着る」との回答があった。「着物」がハレの日の衣服であることを実感している様子がうかがえた。「着物」の着装経験は、8割強であったが、その内の5割は七五三のみであった。日本の衣文化(和服)への興味関心は、着装授業前は「ある」34名「あまりない」6名であり、授業後は39名、1名になった。対象者は家庭科教員免許を取得する学生であり、もともと関心が高かったが、1名を除いて関心が高まった。「着物」の印象は、着装授業前は「苦しい」と「思う」34名「思わない」6名、授業後は21名、19名と変容した。「着物」への興味関心を問う全項目で、事後が高まった。また、自分の着付けを100点満点で自己評価させた結果、平均点は70点だった。
質問紙調査や平均点より、概ね小紋の着装体験に満足している様子が伺えた。「着物」の着装体験により高揚感を味わい、日本の伝統文化への興味関心を高めてもらうための活動としては、効果があったと考えられる。
自由記述では、「講師の先生が分からないところを指導してくれて楽しく着付けする事が出来た」、「専門用語が分からなかった」、「お太鼓を学びたい」、「成人式が楽しみ」など、前向きな感想が多く見られた。しかし、着付けの際「おはしょりの始末」、「衿合わせ」、「帯の結び方」、「全部」が難しかったと回答があり、高等学校での実施には、詳細な検討が必要である。
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