文化的多様性にみちたインドにおいて,出生力を規定する要因は,社会,経済的要因に加えて,文化的要因が複雑にからみあっている。後者の文化的要因は,指標として数量化することが困難であり,出生力の要因分析を行う場合,その第一段階として,比較的に均質な地域を対象とすることが,有効であると考えられる。今回の分析において,比較的に均質なドラヴィダ系親族体系をもつ
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4州を選択したのは,この理由によるものである。分析方法は,最初に,人口,労働力,農業,教育,医療,宗教に関する33の変数を用い,因子分析による
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の地域特性の類型化を試みた。因子分析により抽出された因子は,労働力特性を示す第一因子,社会発展度を示す第二因子,世帯構成に関する第三因子,農業特性に関する第四因子,都市性を示す第五因子である。以上の因子構造を要約すると,
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は,産業構造として労働集約的農業が主体であり,教育水準,医療水準ともに低く,社会発展度は低いと考えられる。次の試みは,因子分析によって要約された
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の地域的特性を示す因子を代表する変数を利用し,これらを出生力の指標一婦人・子供比率(0-4歳人口/15-49歳女子人口)-を従属変数として,重回帰させることによって,出生力の地域格差を説明することである。各因子から抽出された変数は,第一因子から年少労働力,第二因子から,女子識字率と医師一人当たり入口,第三因子からは未婚者比率,第四因子からは耕作面積当たり人口密度,第五因子からは第一次産業従事者比率と都市人口比率の以上の7変数を選び回帰推定を行った。推計結果によれば,これらの要因は,出生力の地域格差の48.4%を説明している。このモデルでは高出生力の主要因が,
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の労働集約的農業形態にあり,そこに投入される年少労働力の必要性が高出生力の要因であることを推論させる。投入された変数のうち統計的に有意である年少労働力,耕作面積当たり人口密度にさらに,女子識字率を加え,3変数について婦人・子供比率との州別の回帰推定を行った。推計結果は,タミル・ナドウ,ケーララ州においては,統計的に有意な結果を得られなかった。しかしアーンドラ・プラデーシュ州においては,年少労働力が高出生力の主な要因と推計される一方,カルナータカ州において,教育水準の高さが出生力低下に有意な効果を示していることは注目に値する。
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