愛知県渥美郡赤羽根町の1地域集団を対象として, 脳卒中や冠状動脈疾患の基礎をなす動脈硬化症の自覚症状の調査・分析を行なった. 40~79才の男女1714名について, 自覚症状の問診とともに, 尿タンパク, 尿糖, 随時血圧, 血清コレステロール, 標準12誘導心電図, 眼底カメラ等の諸検査を行ない, 動脈硬化の有無および可能性の大小により5群に分けた. まず健常者についてみると, 自覚症状の頻度に, 性差, 年令階層差のあるものがかなりあった. すなわち「逆上感」,「浮腫」,「手足しびれ」,「眩暈」などは女に多く, 逆に男に多いのは,「気むずかしい」,「頻尿」,「胸部圧迫感」であった. 年令階層が上ると共に著しく頻度の高くなる自覚症状として,「しゃべりにくい」,「日常動作の緩慢化」,「歩きにくい」,「間歇性跛行」,「足の力が急に抜けて歩けない」があげられた. そこで動脈硬化と自覚症状の関係をみるにさいしても, 性・年令訂正を行なった. 動脈硬化症と関連の深い自覚症状をあげると,「気が遠くなる」,「しゃべりにくい」,「胸部圧迫感」,「息苦しい」,「間歇性跛行」,「逆上感」などで, その頻度は期待値の2.0~3.6倍に達した. 逆に従来動脈硬化に多いとされていて, 本研究ではそれほど結びつきのなかったものは,「頭痛」,「眩暈」,「記憶力低下」,「気むずかしい」などであった. 人口の老令化に伴ない, 動脈硬化性疾患が増加しているが, スクリーングのための信頼すべき検査は少ないので, 自覚症状の正しい評価が重要であることを強調した.
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