インプラント体の表面は,インプラント槽骨との接触率の増加あるいは骨形成を期待して,種々の材料や方法で加工されてきた.しかし,骨形成は,インプラント体の形態や非機能下・機能下の条件によって異なっている.そこで,本研究では,インプラント体が同一形態および機能下の条件下で,表面処理が異なる粗面と滑面のインプラント体を用い,両インプラント体周囲の骨
占有
率および骨形成や骨吸収に関与する血管の
占有
率の経時的変化を調査し,どちらのインプラント体が周囲に骨を長期に維持していたかを明らかにすることを目的とした.実験動物には,咬合様式がヒトに近似した力ニクイザル3頭を用いた.インプラント体には,スクリュー型の同一形態で表面形状の異なる2種類のチタン製インプラント体〔ブラスト処理して表面を粗くしたインプラント体(以下,BIとする)と機械削り出し加工のみで表面が滑沢なインプラント体(以下,MIとする)〕を用いた.これらインプラント体それぞれを下顎の第二小臼歯部と第一大臼歯部に植立し,両インプラント体を14週非機能下においた後,14週非機能下においただけの条件(以下,機能後0週とする)の部位および引き続き金銀パラジウム合金製の上部構造(金属冠)を装着して,1週,4週,12週,24週にわたり機能下においた条件の部位を設けた.実験動物を安楽死させた後,アクリル樹脂微細血管注入法によって,機能後0週,1週,4週,12週,24週の縦断されたインプラント体およびその周囲の微細血管鋳型・骨同一同時標本を作製した.これら各標本を走査電子顕微鏡で観察および連続写真撮影し,写真を合成した.合成断面画像で,インプラント体表面から500μm外周の領域内で,骨断面および血管をトレースし,それぞれの面積を画像解析して,骨
占有率および血管占有
率を算出した.これらの値の変化からインプラント体周囲骨および血管構築を量的に評価した.機能後0,1,4,12,24週の骨
占有
率は,BIでは63.8%,62.1%,62.1%,70.3%,46.4%,MIでは69.4%,74.7%,76.1%,71.9%,55.2%であった.機能後0週から12週まで,MIの骨
占有
率はBIより高かった.この期間,MIの骨
占有
率は変化しなかったのに対し,BIの骨
占有
率は0週から4週まで変化せず,4週から12週まで増加した.BIおよびMIの骨
占有
率は12週で同じとなった.この機能後12週を境にして24週まで,BIおよびMIの骨
占有
率はともに減少したがBIで-23.9%,MIで-16.7%と,骨
占有
率の減少はBIの方が大きかった.機能後0,1,4,12,24週の血管
占有
率は,BIでは4.3%,4.3%,4.1%,5.9%,6.5%,MIでは4.9%,4.7%,4.4%,7.5%,7.4%であった.機能後0週から4週まで,MIの血管
占有
率はBIよりわずかに高かった.この期間,MIおよびBIの血管
占有
率は変化しなかった.機能後4週から12週までMIおよびBIの血管
占有
率はともに増加したが,MIの血管
占有
率の増加はBIより大きかった.機能後12週から24週まで,MIの血管
占有
率は機能後4週から12週までに増加した状態を維持して変化せず,BIの血管
占有
率は増加したが,MIの血管
占有
率はBIより高かった.以上のことから,MIはBIに比べ,インプラント体周囲に骨が長期に維持されたと考えられた.インプラント体の表面形状と関係なく,骨が形成あるいは吸収される時には微細血管は多く,骨が形成も吸収もされない時には微細血管は増加も減少もしないことが示唆された.
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