各種の工業が立地するいわゆる複合工業地域においては,しばしば先行産業の存在が認められる.既存の工業が何らかのかたちで関与しつつ,新しい工業を発生させていく過程は,工業地域の形成過程とその構造を明らかにするうえで重要である.本論は,浜松地域における二輪車工業の展開を通して,二輪車工業地域の形成とその成立基盤を明らかにし,先行産業の存在,既存の工業の新興工業へのかかわり方を論じようとするものである.
浜松地域における二輪車工業は,第二次大戦後,無線機用のエンジンを改良して,自転車に装着することから始まった.その後,二輪車メーカーの叢生をみたが,有力メーカーの量産化,販売体制の強化などの前に中小メーカーは潰えた.しかし,競争に勝ち残ったメーカー3社を頂点として,下請工場群が集積し,二輪車工業地域が形成された.その過程で,繊維機械工業や楽器工業をはじめとする各種先行産業が,技術・資本・設備あるいは下請工場化するなどのかたちで二輪車工業の成立に関与し,新しい工業が発展するに至った.一方,二輪車は,さらに新たな工業への基礎となった.ここにも工業連関の存在と,それによる新しい工業地域の形成を認めることができる.
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