文章に占める漢字の割合(漢字含有率)は20世紀の中葉まで減少するものの20世紀の末葉からは大きくは変動せず,安定しつつあることが明らかになってきた.しかし,なぜ安定したのかという疑問は残されたままである.本稿ではこれまでの研究に倣って語種に着目し,芥川賞作品を対象として漢字使用の実態を語種(和語・漢語・外来語)別に調査し,その変遷について分析した.その結果,20世紀の末葉から漢字含有率が安定しているのは20世紀の中葉まで見られたような語種の構成比率や語種別に見た漢字使用の実態の変化が見られなくなったからであるという結論が得られた.また,これまでの研究の結果に対しても同様に分析した結果,20世紀の中葉まで漢字含有率が減少していたのは主として漢字表記の漢語の減少に起因している可能性が示された.更に漢字表記の和語は仮名表記の和語の増加に伴う和語全体の増加によって相対的に減少していることも示された.
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