【はじめに、目的】
反重力
トレッドミルは空気圧を利用した下半身陽圧負荷により体重を部分免荷し,下肢負担を軽減させた状態で歩行練習を行うことのできる部分免荷トレッドミルの一つである.
運動器分野では変形性関節症や人工関節置換術後,靭帯再建術後症例でその有効性が報告されているが,その部分免荷作用による筋活動変化については健常者データを元にした報告が多く,運動器疾患症例においてどのような筋活動変化が生じるかは不明確である.
そこで今回,TKA術後早期の3症例において,表面筋電図を用いて
反重力
トレッドミル歩行中の歩行時筋活動計測を行い,免荷量の違いによる筋活動変化を調査検討した.
【方法】
対象は膝OAにより片側TKA施行後2週の患者3名とした.表面筋電図計測装置テレマイオG2(Noraxon社)を使用し,サンプリング周波数1500Hzにて
反重力
トレッドミル(ALTER-G, 日本シグマックス社)歩行時の筋活動を計測した.被検筋は患側の大腿直筋(RF),大腿二頭筋長頭(LH)とし,荷重量を体重の100%,66%,33%と調整して,快適歩行速度にて歩行を実施した.波形の安定した連続5歩行周期を100ms間隔のRMSで平滑化し,加算平均を行った.各筋で5秒間の最大随意等尺性収縮を行い,500msずつの移動平均によって求めたMVCを用いて1歩行周期の%MVCを算出した.1歩行周期100%となるよう正規化し,各荷重量における1歩行周期中の各筋活動最大値及び平均値を求めた.
【結果】
各荷重量における3名の1歩行周期の筋活動(%MVC; max, mean)は,100% RF(29.0, 18.6) LH(41.2, 23.1),66% RF(22.4,13.2) LH(35.7, 14.0),33% RF(16.8, 12.1) LH(26.6, 13.1)であり,荷重量低下に伴ってRF,LH共に筋活動が低下する傾向があった.
症例別の結果は,症例①100% RF(35.5, 17.7 ) LH(63.7, 33.0),66% RF(19.2, 9.0) LH(39.1, 11.9),33% RF(13.4, 7.4 ) LH(36.6, 15.5),症例②100% RF(21.0, 14.6) LH(37.4, 21.8),66% RF(22.0, 12.7) LH(42.7, 16.1),33% RF(20.9, 10.6) LH(18.6, 9.8),症例③100% RF(33.8, 23.6) LH(34.0, 14.3),66% RF(26.9, 17.8) LH(35.9, 14.0),33% RF(28.3, 18.2) LH(31.0, 14.1であった.
【結論(考察も含む)】
健常者を対象とした先行研究では,
反重力
トレッドミルの部分免荷により歩行や走行における大腿前面や下腿後面の筋活動が低下することが示されているが,今回のTKA後3症例での検討では,RFだけでなくLHでも部分免荷による筋活動低下がみられた.また,3症例において100%荷重歩行中に高い筋活動を要している症例ほど,部分免荷により筋活動が低下する傾向があった.
反重力
トレッドミルでの部分免荷は,歩行時の大腿筋活動を低下させる傾向にあることから,TKA術後早期の筋力低下に対する歩行時の膝関節周囲筋の代償的過活動を減じた状態で歩行練習ができる有用な治療戦略になり得ると考えられた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿ったものであり,被検者に目的および方法を十分説明し,研究参加に対する同意を得た.
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