1.はじめに
日本では、高度経済成長期にあたる1950年代後半以降、とくに若年層の三大都市圏への人口移動が顕著になり、そのような人口を受け入れる住宅を大量に供給する必要性が生じた。そのため、大都市の郊外地域においてもとりわけ1960年代に入り住宅開発が急速に進んだ。このような郊外の住宅団地に入居する居住者は、1930~40年代にかけて生まれた世代を世帯主とし、夫婦あるいは夫婦と子供といった核家族世帯に偏っていた。その後、住宅の成熟とともに居住者の高齢化が進んだが、公営の共同建住宅では、居住者の入れ替えと子世代の転出が進み、親世代の定着と高齢者の優遇入居政策によって高齢者の集積が顕著になった(由井1998)。一方、戸建住宅団地では、共同建て住宅以上に定住傾向が強く、高齢者の比率は非常に高くなっている(伊藤2008)。
このように、大都市の郊外住宅地域では居住者の高齢化が大きな関心を集めているが、高齢化の差異に関しても研究事例がみられ、伊藤(2010)では、仙台市を対象に、ほぼ同時期に開発された戸建住宅団地を複数取りあげ、入居間もない時期にすでに年齢構成に差異があり、さらに高齢化における差異も明らかになった。そして、この研究では居住者の職業や仙台駅からの距離といった団地属性との関連性について言及を行っている。
そこで、今回の発表では2010年秋季大会での発表内容をもとに、
名古屋都市圏
において1960年代に入居が開始された戸建住宅団地を複数取りあげ、居住者の年齢構成や高齢化状況とその差異について示すとともに、住宅地の最近の変容についての報告を行うこととする。
2.対象とする地域
研究対象は、名古屋市とその周辺に位置する市町とし、旧版地形図を参考に、1960年代までに造成が終了し、入居が認められる28団地とした。また、対象とした住宅団地は、民間開発主体による戸建住宅団地であり、団地の規模は80区画以上のものを取り上げた。これらは、昭和50年国勢調査の調査区別集計および平成22年の町丁字別集計においてほぼ同じ範囲で経年比較が行えるものである。
3.対象住宅団地における高齢化の状況
まず、28地区における1975年時点での高齢者(65歳以上)人口比率は4.4%で、当時の日本の高齢者比率である7.9%をさらに下回っていたが、35年後の2010年には30%を超える状況になっている。また、対象とした28の住宅団地では2010年時点の高齢者人口比率で有意な差異が認められた。今回の事例では、交通の利便性が相対的に悪く、現在にかけてあまり向上していない団地の高齢化と人口減少が顕著であった。
4.対象住宅団地における近年の状況
今回は、対象とした28住宅団地において空き家の状況を調べ、過去の住宅地図との比較対象を行っている。このような調査、分析においては小西ほか(2008)や由井(2012)で行っている方法を参考に、詳細は発表時に説明する。
文献
・伊藤慎悟2010.仙台市における戸建住宅団地の高齢化.地理学評論83:510-523
・小西沙恵・西岡絵美子・横田隆司2008.戸建て住宅団地の空き家と空き地の現状に関する研究 -千里ニュータウンを対象に(建築計画)-.日本建築学会近畿支部研究報告集. 計画系48:25-28.
・由井義通1998.大阪市における公営住宅居住者の年齢別人口構成の変化. 人文地理50-1:43-59.
・由井義通2012.地方都市の郊外住宅団地における空き家の発生.日本地理学会発表要旨集82:72p.
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