【目的】Quadriceps setting(以下setting)及びSLR は,臨床場面等で幅広く用いられている.しかし,筋力強化の種類や方法の影響を単独で示し,比較した報告は少ない.今回,settingと SLRによる筋力増強効果及び徒手抵抗と自主訓練との比較を行い,若干の知見を得たので報告する.
【対象】同意が得られた健常人69名を, A群:19名(男性8名,女性11名・平均32.5±12.3歳), B群:18名(男性7名,女性11名・平均32±9.1歳),C群:16名(男性8名,女性8名・平均32±8.9歳), D群:16名(男性7名,女性9名・平均32±9.5歳)に無作為に分類した.
【方法】A群・B群は膝伸展位・足関節背屈位・5秒保持のsetting,C群・D群は股関節屈曲15度・5秒保持のSLR を実施し, 1期(A群・C群:徒手抵抗,B群・D群:自主訓練),2期(A群・C群:自主訓練,B群・D群:徒手抵抗)の2群2期クロスオーバーデザインにより比較した.頻度は週2回,期間は各期8週とした.評価は,最大筋力を開始時と4,8,12,16週経過時にアニマ社製μTASF-1を用い,等尺性膝伸展筋力を2回測定し,最大値の体重比を採用.また, CT断面積(膝蓋骨上縁10cm),30秒間椅子立ち上りテスト(以下CS-30),10m歩行(最大速度、歩数),Physiological Cost Index(以下PCI),歩容(ステップ長,ストライド長,歩隔)を開始時と8,16週経過時に測定. CT撮影は診療放射線技師の協力を得た.また,負荷量の目安として訓練前後の脈拍,自覚的運動強度(以下RPE)を訓練毎に測定.統計的手法は, Wilcoxonの符号付順位検定,Kruskal Wallis検定,Bonferroni検定を用い危険率5%以下を有意とした.
【結果】開始時の年齢,筋力,CT断面積は各群間での有意差を認めなかった.1期では各群共に筋力,CT断面積,CS-30の増加を認めた.2期では筋力,CT断面積,CS-30は徒手抵抗のみ増加を認めた.筋力の増減率は1期:A群30.1±14.2%,B群19.6±12.4%, C群18.4±9.4%,D群9.2±11.8%,2期A群-7.7±7.5%,B群12.1±8.5%, C群-4.8±9.4%,D群8.1±7.6%,CT断面積の増減率は1期:A群4.9±3.1%,B群2.9±2.8%,C群2.9±1.9%,D群1.4±1.5%,2期:A群-0.2±2.4%,B群 4.4±3.2%,C群-0.7±1.6%,D群2.7±1.9%であり各群間に有意差が認められた.10m歩行は,1,2期共に徒手抵抗で有意に減少が認められた. RPE,脈の増加率は各群間に有意差が認められた.
【考察】各群を比較すると,徒手抵抗でのsettingが最も筋力増強効果が大きい結果であった.自主訓練でも筋力増強効果が得られたが,2期のA群・C群で筋力が低下したことからも,自主訓練のみでは一度増加した筋力を維持する効果は期待出来ないと思われた. SettingやSLRは日常的に多用される筋力強化方法であり,多くのPTが自主訓練としても推奨すると言われている.しかし,状態に合わせたより効果的な方法を選択し,指導する必要があると考えられる.
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