1.はじめに韓国には,
地域主義
が介在しているといわれている。
地域主義
には様々な定義があるが,ここでは,国家内における地域的主張,あるいは地域間の対立を表す。韓国における
地域主義
は,文化的,言語的,民族的アプローチでは説明できないのが特徴であり(Morriss, 1996),軍事政権の下での不均衡な地域経済開発により政党政治の領域化を引き起こし,それが
地域主義
政治を確かなものへと導いた(Park, 2003)。
本研究は,これらの背景を鑑みて,朴正煕(パク・チョンヒ)政権下の輸出指向型工業化政策により早くから製造業が発展し,韓国経済を牽引してきた釜山広域市を研究対象地域として,釜山地域を基盤に置いて活動していた政党の地域的主張から,政党政治の領域化や韓国
地域主義
について検討する。
2.国家政治経済過程と釜山発展過程のコンテクストかつて,釜山地域は,金泳三元大統領の活躍と,日帝占領期からインフラが充実していたという特有のロケーションから,軍事政権下の輸出指向型工業化政策による恩恵と,金泳三所属の新民党による民主化推進で葛藤があった。これは,大統領選挙と国会議員選挙それぞれの結果にも表象されている。だが,釜山地域の製造業が全国水準と差異がなくなりつつあったことと金泳三の政治的弾圧によって勃発した民主抗争により,軍事政権に対するイデオロギー的対立,そして「金泳三が牽引する政党=釜山地域を基盤とする政党」という構図が成立し,
地域主義
が明確に表れる結果となった。
3.17代総選におけるハンナラ党の釜山広域市に対する政治的実践と領域化2004年に17代総選(国会議員総選挙)が実施された。今日において,釜山広域市を基盤に置くハンナラ党の着眼点は,釜山地域内とローカルで,また,立候補者擁立のために,地縁や学校縁を考慮に入れている。釜山地域におけるハンナラ党の政治的実践は,上層部による場所の感覚が「オフィシャル」な党の政治戦略として具現化され,政党の領域化を利用することで領域的実践へと変換されていったと考えられる。
4.今日における韓国地域主義
とは?韓国における
地域主義
は,軍事政権下では地域経済発展の不均衡や官僚人事起用の地域的偏重,政治的主導者が出身地域を支持基盤として政党を形成することで発生した。そして今日では,特的地域に拠点を置く政党(≠地域政党)の政治的実践が,これまでの政党の領域化を利用,維持することで表象されており,
地域主義
が現存した形となっている。これは,韓国に介在する固有の
地域主義
として,「Regionalism of Korea」ではなく,「Korean Regionalism」という表現も可能である。
【参考文献】Morriss, P. 1996. Electoral politics in South Korea.
Electoral Studies 15 : 550-562.
Park, B. –G. 2003. Territorialized party politics and the politicsof local economic development : State-led industrialization and political regionalism in South Korea.
Political Geography 22 : 811-839.
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