【目的】
これまで我々は、ラット距腿関節を4週間不動化すると軟骨下骨層から関節軟骨層への血管様構造の侵入を認め、不動の過程で持続的他動運動(CPM)を実施するとこの変化が抑えられることを報告してきた。一方、関節の不動は軟骨組織の低酸素状態を惹起することが予想され、先行研究によれば組織が低酸素状態に陥ると転写因子(Hypoxia-Inducible Factor-1a;HIF-1α)が発現し、これは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現を調節していると報告されている。つまり、血管様構造の侵入といった不動による軟骨組織の形態学的変化は、HIF-1αやVEGFの発現が関与しているのではないかと仮説でき、本研究ではこの点を明らかにするとともに、CPMの影響についても検討を加えた。
【方法】
実験動物には12週齢のWistar系雄性ラット14匹を用い、これらを無作為に1)対照群(C群、n=4)、2)両側後肢を膝関節最大伸展位、足関節最大底屈位で4週間ギプス固定する群 (I群、n=5)、3)ギプス固定の過程でCPMを実施する群(CPM群、n=5)に振り分けた。今回のCPMは角速度10°/秒の足関節底背屈運動であり、麻酔下で両側後肢のギプス固定を解除した後に30分間(週6回)行った。実験終了後は両側足関節を採取し、組織固定、脱灰処理の後にパラフィン包埋切片を作製し、H&E染色、ならびにHIF-1α,VEGFに対する免疫組織化学的染色を実施した。そして、検鏡像を用いて脛骨遠位端関節軟骨における血管様構造の出現数、ならびにHIF-1α,VEGFの陽性細胞の出現率を各群で比較した。なお、本実験は長崎大学動物実験倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】
血管様構造の出現数はC群よりI群が有意に高値を示し、CPM群はI群より有意に低値で、C群との有意差も認めなかった。次に、HIF-1αとVEGFの陽性細胞の出現率は同様の傾向にあり、C群よりI群、CPM群は有意に高値で、I群とCPM群を比較するとCPM群が有意に低値であった。
【考察】
一般に、関節軟骨に対する酸素供給はpumping actionによる滑液の関節軟骨への浸透によってもたらされる。今回の結果から、I群にはHIF-1αの発現増加が推測され、関節の不動によって軟骨組織が低酸素状態に曝されていることは明らかであろう。そして、I群にはVEGFの発現増加もうかがわれ、血管様構造の出現数がC群より有意に高値を示した結果は、本研究の仮説を支持していると思われる。一方、CPM群の血管様構造の出現数はC群と有意差を認めず、HIF-1αやVEGFの発現増加もI群ほど顕著ではないと推測できる。つまり、CPMはpumping actionによる滑液の関節軟骨への浸透を促進し、不動による軟骨組織の低酸素状態の惹起を抑制する効果があると推察される。
抄録全体を表示