【目的】
一般に、T-cane は、他に合併する問題がなければ、健側で使用すべきである。しかし、患側下肢に対して、同側上肢でT-caneを把持して歩行をしている人を臨床上見かけることがある。本研究は、利き手でT-cane を把持する事と非利き手でT-caneを把持することの違いにより、下肢に対する荷重の免荷作用の影響を、床反力計を用いて明らかにする事を目的に行った。
【方法】
対象者は下肢に整形外科的疾患の既往がない健常成人13名(男性9名、女性4名)とした。測定には、床反力計測装置(アニマ社製MA5250-A)を2枚用いた。歩行パターンは2動作前型と3動作前型それぞれ4パターン(a.患側…右下肢、杖…右手、b.患側…右下肢、杖…左手c.患側…左下肢、杖…右手d.患側…左下肢、杖…左手)ずつ、計8パターンとし、各パターンをそれぞれ2回ずつ計測した。対象者各人の下肢にかかる
垂直抗力
の最大値を平均し、健側下肢(非免荷側下肢)の
垂直抗力
の平均値から、患側下肢(免荷側下肢)の
垂直抗力
の平均値を減じて、この値を健側下肢の
垂直抗力
で割り、出た値を杖の免荷率とした。統計処理は繰り返しのある二元配置分散分析を用いた。なお、有意水準はいずれも5%未満とした。
【結果】
2動作前型では、右手で対側患側(T-caneを把持した手に対して対側を患側とした場合)の場合が免荷率において最も高い値を示し、左手で同側患側(T-cane把持した手に対して同側の下肢を患側とした場合)の場合に最も小さな値を示した。杖を同側あるいは対側で把持した場合や、利き手と非利き手に有意差はなく、交互作用も見られなかった。3動作前型では、右手で対側患側の場合が免荷率において最も高い値を示し、左手で同側患側の場合に最も小さな値を示した。同側で杖を把持した場合より、対側で把持した場合の方
が、有意に大きな値をしめした(p<0.05)。利き手と非利き手には有意差はなく、交互作用も見られなかった。
【考察】
分析の結果、3動作前型においてT-caneを同側で把持した場合よりも対側で把持した場合の方が免荷率において有意に大きな値を示した。対側に杖を付いた方が同側に付くよりわずかな重心移動で行えることから対側に杖をついた方がスムーズに免荷できたのではないかと考えられる。3動作前型において利き手ではなくとも対側で杖を把持した方が患側にかかる荷重を免荷するのに有効であるという結果を導いた。この結果は、今後臨床で高齢者や下肢関節疾患を有する患者に対して杖歩行の指導を行う上で1つの指標としての有用性が示唆された。
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