本稿では,緑川ゆき原作のアニメ作品『夏目友人帳』のロケ地である熊本県人吉市を事例として取り上げ,この地域が2008年に作品が放送されて以来,長期間にわたりファンによりアニメツーリズムの聖地になり続けている要因について,地域の特色や取り組みに着目しつつ考察を行った。近年の他のアニメ聖地の場合,作品の描く世界観の再現に注力したテーマパーク化を志向する傾向が見られるが,人吉市の場合,作品で描かれた人吉の自然と社会を未加工のままファンに体験させることに力点がおかれている。『夏目』作品自体が豊かな自然とゆったりとした主人公の日常生活の描写を特色としているが,人吉市の取り組みはそれに沿った形で自然体の地域性を強調している。そうした人吉市のスタンスが『夏目』ファンから支持され,人吉市におけるアニメツーリズムの長期継続に繋がっていると考えられる。
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