葛根湯加川〓辛夷の出典に関しては従来より本朝経験方と記され, その成立について寺澤は論説『葛根湯加川〓辛夷の成立に関する一考察』で, 辛夷の加味については1940年代までの文献には皆無であるとか, 辛夷の出典についての明確な資料がないなどと述べている。今回, 川〓と辛夷の加味について以上の点を踏まえて検討した。まずコブシが辛夷に充てられて使用されるようになった経緯のこと,『本草綱目』に「芦〓為之使」と記載されていること, 吉益東洞のような全く辛夷を処方しない流派もあったこと, さらには江戸時代に梅毒治療の一環として葛根湯加味方が採用されることもあり, その加味方として川〓を含む処方, 辛夷を含む処方, および川〓, 辛夷を含む処方等があり, 梅毒疹の出現状況や水銀剤の副作用軽減目的等に応じて対処されてきたことなどを明白にした。今回の調査範囲では葛根湯合五物解毒湯加辛夷が最も葛根湯加川〓辛夷に近い処方だった。
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