和紙は,障子に代表されるように日本人の生活様式と深い関わりがある。かつては地域の自然を利用し伝統工芸品を作るなど,原材料と地域性には深いつながりがあった。本研究では,美濃和紙を例に,建築と関わりのある和紙原料利用の歴史的変遷及び職人が今後どのように伝統を守り支えていくかを調査した。最高級の書院紙である本美濃紙は伝統的な製法と製紙用具により作られ,その材料には他地域産の良質な楮(こうぞ)を用いなければならない。
本研究では和紙原料利用の歴史的変遷として,①戦争中の食料難で楮畑を転作し,土地本来の書院紙の原材料であった津保草を絶やしてしまったことが理由で原材料の確保が難しくなり,現在では他地域の楮に依存している事,②一方で若手の職人たち自身が将来を見据えて植生回復を始めているが,再び津保草で漉く書院紙を復活させる事は容易ではない事等が文献調査,現地踏査及び職人へのアンケート調査から明らかになった。
抄録全体を表示