1.研究背景と目的 富士山
麓は山梨県と静岡県の両県に位置し,
富士山
の北麓,東麓,南麓,西麓では地形,気候,土壌などの自然条件や人文条件の差異から異なる地域的性格をみせる.本研究では,
富士山
麓における農業的土地利用変化について,斜面地における垂直的な変化と,北麓,東麓,南麓,西麓地域における水平的な変化パターンについて明らかにすることを研究目的とする.本研究では,主に農林業センサスのデータを用いて
富士山
麓における農業的土地利用の変化を分析した.まず,
富士山
麓における1970年と2010年の農家数,水田率,畑率,樹園地率をそれぞれ図化することで,
富士山
麓における農業の動向と農地分布の変化を明らかにした.さらに,農業的土地利用の分析に関しては,農林業センサスの「農産物販売金額第1位の部門別経営体数」を指標として修正ウィーバー法を適用し,農業集落ごとに農業経営体の結合型を算出して農業的土地利用変化の地域性を検討した.
2.富士山
麓における農業の動向と農地分布の変化 農林水産省の生産農業所得の推移から,
富士山
麓における1970年代から2000年代の過去40年間の農業の動向について概観した.これによれば,
富士山
麓における生産農業所得1970年代から1980年代にかけて著しい増加傾向を示していた.このような生産農業所得の著しい増加傾向は,富士宮市や富士市などの
富士山
の西麓地域から南麓地域に位置する市町村においてみられた.
富士山
の西麓地域に位置する富士宮市と富士市については,生産農業所得は1980年をピークに減少傾向を示すが,これは他の市町村についても同様の傾向であった.さらに,農林業センサスのデータから,1970年と2010年の水田率,畑率,樹園地率の変化についてそれぞれの地域ごとの特徴をみた.水田率については,
富士山
東麓地域の鮎沢川流域(酒匂川水系)において増加傾向がみられた.また,畑率については
富士山
南麓地域の斜面地において減少した.その一方で,
富士山
南麓地域の斜面地では樹園地率が著しい増加傾向を示した.
3.富士山
麓における農業的土地利用の変化とその地域性 修正ウィーバー法により算出された農業経営体の結合型をもとに,1970年と2010年の農業的土地利用変化とその地域性について検討した.1970~2010年の期間においては,3種類以上の結合型は100から50に減少した.一方,2種類以下の結合型は増加しており,293から343に増加した.以上のことから,
富士山
麓における農業経営体の多様度は低下していることが示された. さらに,1970年と2010年の比較から,
富士山
麓における農業的土地利用変化の地域性について検討した.
富士山
東麓地域に位置する鮎沢川流域では,稲作の単一型の農業集落が増加するとともに,稲作の単一型の範囲は拡大する傾向がみられた.また,
富士山
南麓地域においては,その他の作物に分類される「茶」の単一型の農業集落が拡大した.1970年に露地野菜や茶栽培との結合型を示していた農業集落は,2010年には花卉類栽培に該当する農業集落との結合型に変化した.これらの変化は,
富士山
南麓地域の比較的標高が高い農業集落においてみられた.また,酪農に該当する農業集落は1970年の段階では
富士山
西麓地域の富士宮市においてみられたが,2010年になると酪農との結合型は減少して稲作や露地野菜との結合型に変化した.
抄録全体を表示