1. はじめに
本来一貫性をもつべき小中高の各教科カリキュラムは、各学校段階の教育改革により分断が生じやすく、その度に一貫性が議論される。近藤・守谷(2023)では、地理教育は小中高の一貫性についてどのように研究してきたのか?という問いを立て、戦後の研究史を分析して地理教育の一貫カリキュラム研究史の特徴を示した。しかし、その妥当性に課題が残り、社会系教科の歴史や公民と比較して関連性や特質を見出しつつ、その連携の在り方を検討する必要性が生まれた。本研究では、歴史教育は小中高の一貫性についてどのように研究してきたのか?という問いを立て、戦後の研究史を分析し、地理教育の一貫カリキュラム研究史と比較することを目的とする。
2. 研究方法
近藤・守谷(2023)と同様の分析方法を採る。一般にカリキュラム編成の過程は、調査等にもとづかない経験や直感による「①提言」が多く存在している状況から、カリキュラムの実態や諸学問(教育学や心理学等)の知見を生かして「②調査+提言」し、カリキュラムを「③開発(再構成)」、「④実践」、その結果を「⑤評価」し、最終的に「⑥理論化」していく。この6段階フェイズを小中高一貫カリキュラム研究の深化を表す分析枠組みとして用い、1947〜2023 年にかけての先行研究を表に整理し、学習指導要領の改訂時期ごとに特徴をまとめる。さらに、その結果を近藤・守谷(2023)の地理教育の結果と比較・考察する。なお、歴史教育では小中高の学校段階の枠を超えたカリキュラム研究が数多く存在するが、本研究では「一貫」と題する研究に対象を限定する。
3. 歴史教育の小中高一貫カリキュラム研究史
第1期(1947-57年)や第2期(1958-67年)にかけては、「はじめに通史ありき」(明石,1964)や小中校で通史が繰り返される「薄墨論」に対して問題提起があり、歴史教育学者や歴史学者が一貫性の在り方の提言をしている。第3期(1968-76年)は研究が見られなかった。
第4期(1977-88年)には、教科書調査による歴史上の人物の精選の研究(吉田,1977)、中高一貫校の実践的研究(西田,1978)、「小・中・高」「一貫」が題目に入った科研事業(東京学芸大学,1988;露木,1982)など、調査に基づく研究が盛んになった。第5期(1989-97年)には、社会科の一貫に関する研究が一部みられる。第6期(1998-2007年)には、 日本女子大学附属(柳沢ほか,1998)、東京学芸大学附属(鈴木ほか,2000;大澤ほか,2000)など小中や中高一貫校での実践報告が増加した。合わせて、社会科の一貫に関する科研プロジェクトが急増した。
第7期(2008-2016年)や第8期(2017-)では、欧米のカリキュラム研究を通した一貫の検討(山田,2007;服部,2012など)や、小中や中高の一貫を意識した実践(須郷,2019;2020など)が引き続き研究されているが、各研究者や各学校での個別の教育財産に留まり、研究動向としては下向き傾向にある。当日は、さらに詳細な傾向とその背景について発表する。
4. 歴史教育と地理教育の一貫カリキュラム研究史の比較
歴史教育と地理教育の一貫性に関する研究史を比較すると、提言から次第に調査・開発が進む点や、個別の
小中
・
中高一貫校
の実践研究が盛んな点など、類似点がある。歴史教育は地理教育の鳥海や山口のような大型プロジェクトが発足しない一方で、一貫の名を冠せずともカリキュラム構成理論化を志向する研究が数多く存在した。この背景には、米国から影響を受けた社会科歴史と日本の歴史学という学問との狭間にある歴史教育研究の境遇が関連していると考えられる。それは、社会科地理と地理学が「一貫」という視点で教育と学問の関係性を再度議論し、整理しながらカリキュラム構築する必要性を示唆している。
引用文献
近藤裕幸・守谷富士彦 2023. 戦後の小中高における地理教育一貫カリキュラム研究の変遷. 地理68:88-94.
※分析対象の研究は、紙幅の都合上、発表時に示す。
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