(1)東京都区内にある・T及びSの二つの電務区の電話交換手について,その月経の状況を7ケ月間継続して観察した.その数は276名である.
(2)被調査者の年齢は,最低15歳から最高27歳に及んでいるが,その92.3%,すなわちほとんど全部は青年期に属するものである.
(3)平均勤続年数は3年11月であるが,配置轉換者が多い-50.7%にもなつている-ため,平均経驗年数は2年7月となり,相当のズレが見られる.なお,前職としては,駅手,出札掛を主とする駅系統業務が多い.
(4)平均初潮年齢は,M±σ=15.45±1.22(年)で,本邦女子の初潮年齢標準値(井出)とされている15.04(年)に近い.また,初潮の年齡別頻度をみると大多数(75.8%)は14~16歳の3年齢級に集中し,頻度の最も大きい年令は15歳である.このことも,最大頻度を示す年齢の点を除けば,他の多くの調査とも一致する.
(5)観察回数1,087回による・月経周期の平均日数はM±σ=31.75±8.66(日)で,最大頻度は31日である.また,周期移動の平均日数はM±σ=17.8±12.01(日)となる.周期日数のσ,ならびに周期移動のMおよびσが大きいことは注意を要する.
(6)周期が23~40日,周期の移動が20日以内のものを整調型とし,これをはずれて変動のはなはだしいものを乱調型として,継続5回以上の月経を記録したもの167例を分類すると,整調型45.5%,乱調型54.5%となる.この乱調型の比率は他の諸報告に比べるときわめて高いのであつて,前項の数値もこの影響であると思われる.
この高率の理由としては,(イ)年齢構成において弱年者が多いこと,したがつて,(ロ)初潮後の経過年数が短いこと,(ハ)就職後の経過年数もまだ浅いことなども考えられるが,常時つよい精神的緊張を要求される作業からの影響もあるかも知れない.今後の重要なる課題として保留したい.
(7)月経の持続日数を,前と同樣に,延1,422回の月経について観察すると,度数分布では3~7日のものが94.8%で,4日がなかんずく多く,また,平均持続日数はM±σ=4.60±1.38(日)であるが,これらは他の報告ともほぼ一致する.
(8)持続日数がつねに3~6日のものを中庸型,2日以下を短日型,7日以上を長日型,さらにこれらの混合(中庸と短日,および中庸と長日)型と,持続日数型に五つの範疇を設け,周期型の場合と同じ167例について観察,分類すると,最も多いのは中庸型で63.3%,ついでは,中=長混合型が24.1%で多く,以下中=短混合型9.0%,長日型3.0%である.観点を変えて,純型と混合型との比率を比較すると,純型の方が多くて66.9%となる.なお,この持続日数型と周期型の間には相関々係はない.
(9)月経血量については,凝血排出の有無とその日数とによつて客観的把握を試みたが成功しなかつた.
(10)月経隨伴症状の発現率はきわめて高くて86.8%に達し,具体的症状としては,下腹痛45.8%,頭痛27.6%,腰痛17.2%で,頭痛の高率がめだつ.ここにも電話交換作業との特殊な関連が推定される.
(11)月経時の勤務は,わずか12.8%のものによつて「つらくなかつた」とされているだけで,大多数は多少とも苦痛を訴えている.それにしても,「少しつらかつた」が62.1%で「とてもつらかつた」の25.1%をはるかに凌駕している.
(12)月経時休業を昭和23年6月(初調査の月)の有月経者247名について調べると,32.3%,80名が休んでおり,その日数の内訳は2日が47.5%で最高,ついで1日,3日の順である.休業と苦痛程度との関係を見ると,「つらくなかつた」者は休んでいないが,「少しつらかつた」者では大多数の115名が,「とてもつらかつた」者でも半数に近い30名は休まずに働いている.
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