はじめに
底
層流
堆積物は,堆積速度が速く,高精度に古環境が記録されていると言われ,大西洋では底
層流
堆積物中の有孔虫を用いた古環境研究が盛んに行われている.一方,太平洋では底
層流
堆積物の報告例は少なく,古環境研究はほとんど行われていない (Rebesco, 2014など). しかし,日本近海では小笠原海溝~千島海溝に沿った南極底層水起源の底
層流
が報告されており (Owens and Warren, 2001など),このような観測結果は,これらの海溝に沿って底
層流
堆積物を堆積させていることを予見させる. 本研究では,北西太平洋で採取された深海底堆積物を用いて,様々な研究手法を実施した.また,地震波探査記録の検討も行った.結果,それらに底
層流
が記録されていると結論付けた.
今後,
1) 粒子組成解析結果に基づいた北西太平洋における堆積メカニズムの検討
2) 火山灰分析による堆積物の年代測定と堆積速度の検討
3) 微化石等を用いた酸素同位体測定による古環境の推定
を目標とし,北西太平洋の底
層流堆積物を用いた気候変動や底層流
変動の総合的な解明を目指す.
研究航海
2018年9月1日~9月10日にかけにかけ行われた「白鳳丸」による学術研究航海KH-18-5で,4 mヒートフロー・ピストンコアラーシステムを用いて,千島海溝に沈み込むプレートの直上でPC01 (214.5 cm),PC02 (35 cm),PC03 (44 cm),PC04 (230 cm)と,それらに付随するパイロットコアPL01 (14 cm),PL03 (44.5 cm),PL04 (15 cm)が採取された.採取地点はいずれも水深5000 mを超える深海底である. また,同調査地域では,2009年6月19日~7月5日にかけて行われた「かいれい」よる学術研究航海KR09-06にて,マルチチャンネル地震波データKR09-06A2が取得されている.
KH-18-5の研究航海で採取された試料の概要
PC01は上層部 (0 – 35 cm)は砂質層,中層部~下層部 (35 – 214.5 cm)はシルト質粘土層で構成されており,パミス粒子に富むパミス優性層が7枚観察された.PC04は主に粘土で構成されており,上層部33 cm – 45 cmの層準で火山灰層が確認された.
研究手法
研究手法として,山口大学にて,スミアスライド観察,粒子組成解析,またEPMAによる火山ガラスの主成分化学分析が行われた.また,高知大学の海洋コア研究センターにて,X-Ray CT画像撮影,古地磁気測定,帯磁率・帯磁率異方性測定,またITRAXによる元素分析などが実施された.さらに,地震波データKR09-06A2を用いて,地震波探査記録の解釈が行われた.
結果・考察
1) PC01では,パミスに富んだパミス優性層が確認された.粒子組成解析,帯磁率,帯磁率異方性の結果に着目すると,パミス優性層に向かって帯磁率は上昇傾向に,帯磁率異方性 (P値・F値)が減少傾向にあった.以上の結果から,パミス優性層に向かって徐々にパミスの割合が上昇する「逆級化構造」があることが分かった.それは,底
層流
の流れが徐々に強くなったことを表していると考えた.
2) 帯磁率異方性測定に基づいてステレオ投影図を作成した結果,はっきりとした粒子配列が示され,それは,Fujio and Yanagimoto (2005)に示される現在の底
層流
の流向と似ていた.
3) 調査地域近海の地震波探査解析結果から,Rebesco (2014)などに示される「浸食トランケーション」という底
層流
堆積物特有の浸食構造が確認された.
以上より,それらの堆積物に底
層流
が記録されていると結論付けた.
引用文献
Owens and Warren (2001) Deep circulation in the northwest corner of the Pacific Ocean. Deep Sea Research Part I, 48, 959-993.
Rebesco et al (2014) Contourites and associated sediments controlled by deep-water circulation processes: State-of-the-art and future considerations. Marine geology, 352, 111-154.
Fujio and Yanagimoto (2005) Deep current measurements at 38°N east of Japan, JOURNAL of GEOPHYSICAL RESEARCH, 110, C02010.
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