[目的] クリティカル・パス (以下CP) の導入が, 胃・十二指腸出血性潰瘍の患者の治療の質の向上と平均在院日数短縮に貢献するか否かを検討した.
[方法] 平成9年3月から11年12月までにA1, A2 stageの胃・十二指腸潰瘍による上部消化管出血にて, 当院に入院した58例 (CP導入前27例, 導入後31例) を対象とした.CP導入前後での患者背景に臨床的な差は認めなかった.当院におけるCPの特徴は以下の3点である.(1) 全例で入院当日に上部消化管内視鏡検査を施行, 出血源を確認し止血する.(2) 診時の血圧及びヘモグロビン濃度により重症度を区分して, 中心静脈圧測定の必要性や輸血の適応を明確にする.(3) 1週間の禁食の後内視鏡を再検し, 潰瘍の改善を確認してから食事摂取を開始する.このCP導入前後での在院日数にっいて平均値とその分散を比較した.また, 在院の長期化に関与する原因を解析した.
[結果] CP導入前の在院日数 (平均±SD) は14.2±6.2日, 導入後11.5±2.8日であり, 平均在院日数及びその分散は有意に短縮した.またCP導入前には, ショックや貧血を合併した重症群は軽症群に比し長期の在院が必要であったが, CP導入後はこの在院日数格差が解消された.
[考察] CP導入によって在院日数が短縮した主な理由は, (1) 内視鏡再検にて潰瘍の改善を確認してから食事摂取を開始するため, 再出血が減少したこと (CP導入前3例, 導入後1例), (2) ショックや貧血に対する治療法が統一化され, 急性循環不全の早期治癒が得られたこと, などであると考えられた.
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