本研究は,アルペンスキーとノルディックスキーの2種目をとりあげ,スキー競技開催地域においてオリンピックのレガシーがどのような意味を有するのかを検討する。スキーの五輪競技施設は有形レガシーとして維持されているが,その傾向はノルディックスキーで強い。アルペンスキーでは,五輪競技開催スキー場で,競技とゲレンデスキーとの間に利用競合が生じている。スキー競技開催地域は選手育成の伝統のもとで,その仕組みを構築してきた。中学生スキー選手は,長野五輪後はアルペン種目では成績が伸び悩んでいたが,ノルディック種目で継続的に上位成績を残している。ただし,ノルディック種目の好成績は,五輪選手の育成にはあまり結びついていない。スキー選手育成の伝統に対して,長野五輪のレガシーが与えた効果は,五輪開催地域というローカルな地域において,ノルディックスキーでより強く認められた。これは日本独自のスキー文化,すなわち,一般の人びとが楽しむスキーは,日本ではアルペンに著しく特化しており,逆にクロスカントリースキーの競技性が高いことと関係している。
抄録全体を表示