我々は、岐阜県関市の鵜匠宅で飼育されているウミウ13羽の群れを、約2年間、継続的に観察した。カタライ(語らい)と呼ばれる独特のペア飼いや、カタライ同士の親密な行動、シントリ(新鳥)と呼ばれる若鳥の行動に注目し、個体間に生じる優劣や親疎に関する考察を行った。興味深い観察結果が得られたものの、飼育下という特殊な環境での観察に限界を感じ、野生ウミウの観察を計画したが、岐阜県やその周辺でウミウの群れに関する情報を得られなかったので、まずは愛知県師崎に生息するカワウの群れを観察することにした。結果、ウミウとカワウの行動には予想以上の共通点があり、カワウの群れの中にも、飼育ウミウに同じくペアで行動する姿や、ペア同士で嘴や頭部をすり合わせるカタライに類似した行動を観察することができた。さらに、カワウの群れの中に、ウミウと考えられる個体を複数確認することができた。ウミウの嘴基部に続く裸出部は黄色を呈し輪郭が三角状に尖る。これに対しカワウの裸出部も同じく黄色を呈するが輪郭が丸みを帯びるので、望遠レンズを使った撮影により両者の識別が可能である。今回の観察結果にみられるウミウの混在が、偶然なのか、あるいはある程度常態化しているのか。留鳥であるカワウと、越冬のため冬鳥として飛来するといわれるウミウとが、どのような関わりをもつのか。様々な疑問が生じたので、今後もカワウとウミウの双方の観察を続けていきたい。
岐阜県関市では3人の鵜匠の手により鵜飼漁法が行われている。使役されるウミウは茨城県で捕獲された野生種であり、若鳥のうちに鵜匠宅に運ばれ独特の漁法を教え込まれる。ウミウは人に慣れ難い生物であるが、日々接する鵜匠との関係は緊密である。コロナ禍により動物園での霊長類観察ができなくなった我々は、昨年5月から鵜匠の協力を得てウミウ13羽の行動観察を開始した。鵜飼には体の大きいオスが適しているため、1羽をのぞきすべてオスである。さらに11月、その年生まれた若鳥(シントリ・新鳥)2羽が群れに加わった。飼育ウミウは2羽を単位に同じ鵜籠の中で飼育される。このペアをカタライ(語らい)と呼ぶ。我々は、カタライ同士の動向や、シントリとその他のウミウの関係性に注目し観察を行ったが、外観による個体識別は困難であった。通年でも変化のない裸出部・嘴部・脚部の観察で得られる知見に加え、足につけたリボンによる判別を手掛かりにした観察を続けようやく識別が可能となり、同時に行動カタログの作成を行った。カタログ作りでは、特徴的な行動を抽出・命名・定義し、限られた観察時間の中でそれぞれの行動が発生した回数や時間、行動をめぐる個体間関係などを記録した。この方法により、個体間に生じる優劣や親疎等、飼育下のウミウ群の社会関係についての分析を進めることが本研究の課題である。個体識別や行動カタログ作成に関しては、林美里准教授(中部学院大学、公益財団法人日本モンキーセンター学術部長)の指導を得た。
昨年、我々は、ギニア共和国ボッソウにおけるチンパンジーのナッツ割り行動と、現代日本のヒトの子どもを対象とした実験結果との比較を行った。研究を通じ、ヒトとチンパンジーの姿勢の違いや親の関与の違いなどに関し興味深いデータを得たが、「靴を脱がせたら姿勢が変わるかもしれない」「姿勢の違いには文化的差異を考慮する必要がある」「比較実験を行うならば条件を同じにする必要がある」など、発表後に有益な指摘を複数受けた。動画視聴によるチンパンジーの行動分析には限界があり、さらにコロナ禍における制限も重なって、その後十分な研究活動を行うことはできなかったが、ヒトの子どもを対象とした実験を再度行うことによって、様々な知見を得ることができた。昨年の人の子ども対象の実験では、割りやすいように火であぶったクルミを使用したが、今回、割りにくい生のクルミをあえて使用してみたところ、我々の予想に反し、黙々と粘り強くクルミを割る子どもの姿が見られた。ナッツ割りを通じ、子どもの行動について考える貴重な機会を得たと思う。 甚だ不十分ではあるが、研究活動の中間報告を発表したい。
本研究は,東山動物園のニシローランドゴリラ5頭の個体間関係の推移を通じ,個々のゴリラの成長過程や動物園の飼育環境下にあるゴリラ群の社会構造の特徴を明らかにすると同時に,今年で5年目を迎えた関高校の継続的な活動の一環として,貴重な動物園ゴリラ群の長期的なデータの確保に努めることも大きな目的としている。東山動植物園のニシローランドゴリラ群は,オトナオス(シャバーニ)とオトナメス2頭(ネネ,アイ),それぞれが生んだオス・メスのコドモ2頭(キヨマサ,アニー)の計5頭からなる。具体的な手法としては,2個体が半径3m以内に接近する行動を近接として定義し、一定時間内における近接、遊び、ドラミングの回数を,生徒がそれぞれ担当の個体を決めてチェック用シートに記録し,個体間関係に関する分析と考察を試みている。今回は、2018年夏の新ゴリラ舎完成に伴うゴリラの行動や個体間関係の変化に注目し観察を行った。新舎は旧舎と比べ、タワーやネットが設置されるなどゴリラの可動範囲が広がった。結果、「空間的制約による近接」が起きにくくなり、より正確に個体間関係を読み取ることが可能となったと考える。引越し直後は不活発であったが、最近は屋外タワーに登るなど活動的になっている。今後も2頭のコドモゴリラの成長を軸に、観察を継続したい。なお,本研究は,本校SGH活動の一環であり,中部学院大学竹ノ下祐二教授の助言を受けつつ進めている。
本研究は,東山動物園のニシローランドゴリラ5頭の個体間関係の推移を通じ,個々のゴリラの成長過程や動物園の飼育環境下にあるゴリラ群の社会構造の特徴を明らかにすると同時に,今年で4年目を迎えた関高校の継続的な活動の一環として,貴重な動物園ゴリラ群の長期的なデータの確保に努めることも大きな目的としている。東山動植物園のニシローランドゴリラ群は,オトナオス(シャバーニ)とオトナメス2頭(ネネ,アイ),それぞれが生んだオス・メスのコドモ2頭(キヨマサ,アニー)の計5頭からなる。具体的な手法としては,一定時間内における個体間の接触の回数や種類,個体間のおおよその距離を,生徒がそれぞれ担当の個体を決めてチェック用シートに記録し,個体間関係に関する分析と考察を試みている。昨年度の研究では,核オスによる特定の個体(ネネ)への執拗な「いじめ行為」の消長や他の個体の反応に注目し観察を行った。今年度も引き続き,核オスによる「威嚇」「いじめ」の変化,他の個体の反応を追っている。他の霊長類と比べると,ゴリラはおとなしく行動もゆったりとしている。成長も緩やかであり,短期間で変化することはない。ゴリラの行動観察は,様々な制約のある高等学校部活動の研究対象としては,必ずしもふさわしくないのかも知れないが,見方を変えれば,長期的なスパンでの継続的観察が実現できれば,動物園ゴリラ群におけるコドモゴリラから若オスへの性成熟の過程のデータが確保できるため,この研究の大きな意義や必要性が生まれてくる。同じく,いまだ若オス的な行動をとるシャバーニが,成熟した核オスへと変貌を遂げるのか否か,コドモメスのアニーがどのような過程を経てオトナメスへと成長するのかについても,長期にわたる行動観察によって,その過程を明らかにできると考える。なお,本研究は,本校SGH活動の一環であり,中部学院大学竹ノ下祐二教授の助言を受けつつ進めている。
ギニア共和国ボッソウにおけるチンパンジーのナッツ割り行動に関心を持った我々は、現代日本のヒトの子どもを対象とした実験結果との比較を通じ、ヒトの道具使用・加工の開始について探究することにした。チンパンジーの行動については京都大学霊長類研究所ウェブサイト掲載の動画(のべ32個体分)を視聴し研究対象とした。さらに情報不足を補うため、専門研究者からフィールドにおけるチンパンジーの行動についての話をうかがった。ヒトの子どもに関しては、 2020年2月に実施した実験のデータを用いた(2~ 10歳、49人分、オニグルミを使用)。研究の過程で、ナッツ割り行動にあたっての両者の姿勢(座り方)、手指の使い方、親子関係(子どもへの親の関与)、石器使用の習熟進度に違いがあることがわかった。このうち座り方に関しては、ヒトがわずかな例外を除いて前傾姿勢をとるのに対し、チンパンジーは例外なく腰を下ろした座位姿勢をとることがわかった。この差に関しては、前肢・後肢比率(Intermembral Index(上腕骨長+橈骨長)× 100/(大腿骨長+脛骨長)の差に起因するものと判断した。手指の使い方に関しては、母指と他の指の長さの比率の差が関係していると考える。親子関係や習熟進度の違いは歴然としている。ヒトの親は子の行動に何らかのかたちで関与するが、チンパンジーは一様に無関心であった。実験の際、ヒトは例外なくわずかな時間でナッツ割りのコツを覚えたが、チンパンジーは習得に一定期間を要するし、習得できないままの個体も存在する。こうした差はヒトとチンパンジーの認知能力や習性の違いに関わると考えるが、さらにデータを集めたうえで改めて考察を行う予定である。 チンパンジーの使用した石器に関しては、京都大学霊長類研究所で実測や写真撮影、観察を行った。チンパンジーは後肢を用いて台石を支えることがあるというが、そのような使い方の特徴が石器の使用痕にもあらわれていることがわかった。
顔と名前の印象に関する研究は多くなされているが、その中でも名前の持つ社会的印象が顔に影響を与えることを示す先行研究がある(以後顔と名前の関連性と呼ぶ)。しかし、その先行研究の調査対象は英語話者のみであり、日本語話者の中での顔と名前の関連性は示されていない。また、名前が顔の印象に影響を与える際に、どのような要素が関係しているのかも示されていない。顔と名前の関連性についてより調査を深めることで、人が社会の中で印象形成がなされるのかを解明する糸口になると考え、この先行研究を軸に研究を行うこととした。本研究では、特異な芸名制度が存在する宝塚歌劇団に着目し、宝塚歌劇団における芸名と顔に関連性に絞り調査を行うこととした。本研究の目的は、芸名と顔に関連はあるのか、そしてどのような要素によって芸名と顔の関連性が深まるのかの2点である。本研究ではまず、タカラジェンヌの芸名、顔の特徴のそれぞれを分析した。その結果、芸名には男役・娘役それぞれに特徴が見られ、顔に関しては、花王の「平均フェースプロポーション」より、綺麗・大人っぽいという印象を持たれることが示された。次に顔と芸名との関連を示すため、先行研究にならい、1枚の顔写真とダミーを含む4つの名前の選択肢を提示し、正解と思う名前を選択する形式でアンケート調査を行った。その結果、全体の平均正答率が49%となり、芸名と顔の関連性が示された。また分析の結果、芸名と顔の関連性に影響を与えている要素は、宝塚歌劇団の在籍年数であると結論づけられた。これらの調査から、タカラジェンヌは世間一般の女性と異なる特徴を持つものの、芸名と顔に関連があると言える。
現代の日本人にとって一種の文化ともいえる神社神道がなぜ日本人の心性に宿り続けてきたのかを、国分寺高校生や東京外語大学の留学生へのアンケート、文献調査大学教授への質疑応答などを通じて明らかにしていったアンケートは神社を訪れた際の実体験をもとに答えてもらう質問と神社ないしは神道についての考えを示してもらう質問とを複数答えてもらった。アンケート調査の結果、共通点として挙げられたのは神社空間で感じる「何か」であった。具体的な単語としては「穏やか」や「平和的」があった。そしてその両者にそのような雰囲気をもたらすものとして挙げられたのは「自然」であった。これは日本人も留学生も同じである。 相違点としては「神道」を宗教としてとらえるか否かである。留学生が神社に参拝する行為に宗教性を感じるのに対して、高校生は「文化」や「慣習」としている。日本人が神道を宗教と感じない最もの理由は経典やキリスト教の洗礼のような明確な契約が存在せず、宗教が持つ集団やヒトの行動を律する境界があいまいであるからであろう。そうした中で七五三や初詣が行われることで文化的な面が大きくなっていると言える。 また共通点として挙げられた「自然」が和やかな雰囲気をもたらす理由については古神道を含めた自然崇拝の点に目を向けた。神社の形態の変容があるとはいえ、神社という空間は、ヒトと神とされる自然とをつなぐ場 所である。ゆえに神社空間に存在する自然に無意識に何かを感じるのではないだろうか。古来ヒトは自然と対峙し、その恩恵を受けたり、様々な災害に襲われたりしながら生きてきた。自然とヒトとの関係がある意味凝縮して日常の中のある特異なスポットとして表れているのが神社なのではないか。エドワード・O・ウィルソンの提唱した「バイオフィリア」の概念と神社空間がオーバーラップする。ヒトの心性を人類学的な視点でとらえながら、日本人と神社の関係について考察していきたい。
スクールカーストはクラス内で起こる順位性だが,その決定要因ははっきりしていない。本研究では,ヒトの性格や所属の観点,文化的な観点,そして霊長類学、人類学の観点よりはっきりと定義付けられていないスクールカーストの現実を評価し,負の側面があれば、その解決策を考えることを目的に行った。国分寺高校生100名:(男子42名 女子58名)に自身の性格や所属に関するアンケートを,東京外国語大学( 以下外大) の留学生(14名: 出身国はそれぞれ異なる) には自国の学校生活やスクールカースト,いじめ問題に関するアンケートを実施した。加えて,大学の先生やいじめの経験のある国分寺高校の生徒,教員へのインタビュー調査および文献調査を行い、研究を進めた。高校生のアンケートでは、男子はスクールカーストがあったと答えた生徒の中で上位に所属していると思う生徒は、自分自身の性格を明るく皆を笑わせる、異性ともよく話すと分析している。それに対して女子は委員などクラスの中心的な役割を担っているにも関わらず、自分自身はスクールカーストの上位にいるとは評価していない。外大生のうち順位があると答えた人は、上位にいるのはお金持ちと答えた。個人で自分の意志に従って行動することが多いのでカースト的なものはなかったと日本との違いが見られた。なぜ順位付けが起こるのかをアイブル=アイベスフェルトは,高い地位を持つものは餌場や繁殖行動において優位に経つことが出来るために集団で生活する全ての霊長類に見られ、特にチンパンジーでは誇示行動によって順位を獲得し維持すると述べている。また、キャンプに行った折にメンバーの中で順位付けが起こる事例も上げている。順位は高校の事例でも集団をまとめるのに、必要な役割分担的なものでもあるが、それがいじめに発展する事例も友人や大学の先生などからも得た。人間の社会的本性も理解しながら、男女の違いも含めて順位というものをどう考えたらよいかを発表する。
[目的] 同調圧力が私たちの日常にどのように作用しているかを明らかにし、これからの社会のありようについて考えることを目的とした。[方法] まずは身近な授業中の挙手に着目した。国分寺高校生143人に授業中の挙手についてのアンケートを行った。加えて生徒29人を対象にグループ討論形式の実験を行った。 [結果] 9割の人が手を挙げていないことがわかった。また、手を挙げる人は、「誰も手を挙げていないから」手を挙げ、逆に挙げない人は、「答えにくい雰囲気」があるからだとわかった。このことから、手を挙げる1割の人は、手を挙げない9割の人の圧力によって挙げていると推測できる。ここで、「答えづらい雰囲気」をなくすには、周りの人が相槌を打つことが有効ではないかと考え、実験を行った。実験では、 1グループ4〜5人となって、「高校生はアルバイトをすべきか否か」というテーマで討論を行った。特に指示せずに討論するグループと、全員に意識的に相槌を打ってもらうよう指示して討論するグループをそれぞれ3つ作った。全グループ同じように最初に自分の意見を述べてから討論を始めてもらった。結果、相槌回数が多いほど、挙手数が多くなった。このことから、相槌がグループでの話し合いに有効であることがわかった。また、どのグループも最初は意見が割れたが、全グループで最終的に全会一致となった。また、討論中、反対意見の人を強引に自分の意見に変えようとする言動は見られなかった。最初に全員の意見を述べた際に多数であった意見が、全グループで、最終的な合意意見となっていたことがわかった。これは意識せずに同調圧力が働いたことが推測できる。 [考察] 同調圧力がなぜ生じたのかは人類が社会を形成し、自然界の中で生き延びてきた歴史と関連付けて考察していかなければならない。社会を維持するために他者と共感する必要性はあるとしても、一方で自分の意見を明確にしない、できない社会を私たちはどのように変えていったらよいか考察した。
兵庫県丹波篠山市は、美しい里山の風景が残る地域で、農業が基幹産業となっています。また、野生動物も多く生息し、野生動物による農作物の被害が深刻となっています。野生動物は農作物を食い荒らすだけでなく、農家のやりがい・生きがいを奪う、重大な問題であり、対策を講じなければ、農業のやる気もなくなってしまいます。その原因の一つに民家の庭先に収穫されずに放置された柿があげられます。柿が放置されているとニホンザルが山から降りて、農家の方が丹精込めて栽培した農作物にも被害がでます。野生動物が山から降りて来ないようにするために、柿を放置せず、収穫することが対策として有効です。そこで私たちは庭先に放置された柿を早期に収穫し、ジャムに加工するという活動を始めました。令和3年度には柿ジャムを使ったロールケーキを考案し、丹波篠山市内の洋菓子店において商品化されました。昨年度は、柿をフードドライヤーで乾燥させ、パウダー状に加工したものを使用して、パンやクッキーを製造しました。これらは、丹波篠山市で行われた市民センターまつりにおいて販売しました。市民センターまつりを通じて、市民のみなさんの獣害への関心の高さ、学校への応援の声、柿の加工品の価値を認識することができました。そして、柿ジャムは丹波篠山市のふるさと納税返礼品として、今年度から取り扱いが開始されることになりました。
本研究は、声に含まれる倍音と聴衆が抱く印象の関係性を明らかにすることを目的としている。目的を達成するために、3種類の機械音声を用いてそれぞれの音声について3つの楽曲を作成し、聴衆がそれぞれの音声・楽曲の組み合わせを聴いた際にどのような印象を抱くかを感情評価尺度を用いたアンケートにより調査した。この調査結果をもとに、カイ二乗検定を行い印象への影響の大きさを比較した。その結果、「聴衆が抱く印象は、曲よりも声質による影響が大きい」ことが明らかになった。この結果は、アーティストの声質の重要性や音楽制作において声質に注力することが必要であることを示唆している。さらに、3種類の機械音声の持続音をそれぞれフーリエ解析した上で、聴衆が抱いた印象との関係を比較した。その結果、持続音に含まれる整数次倍音と「荘重」印象の相関、非整数次倍音と「親和」「軽さ」印象の相関、13〜16kHzの非整数次倍音と「強さ」印象の相関を見いだした。これらの結果は、倍音の重み付けを調整することによって、聴衆が受け取る印象をある程度操作したり、制作者の意図をより鮮明に表現できるようになる可能性を示している。この仮説をもとに、調性の影響や人の声質の違い等を考慮しながら再実験を行い、仮説の検証や更なる視点からの考察を行った。
マガーク効果によって音声言語の音韻知覚が視覚情報によって変化する現象が見られる。例えば、baの音声にgaの口の動きを合成するとda (融合反応)やga (視覚反応)などのように知覚される現象である。本研究では、この現象を私が制作した動画においても再現できるのかを検証した。高校生5人のba、pa、ma、の音声に、それぞれ一致した口の動きと、矛盾した口の動きの映像(ga、ka、na)を合わせた。撮影はiPhone8の内蔵カメラ、編集はスマートフォンの動画編集アプリInShotとVivaVideoのいずれも無料版を使用した。高校生25人(健常者 24名、聴覚障碍者 1名)に6つの動画の聞こえ方とその明瞭度(どの程度はっきりと聞こえたか)を評価してもらった。一致刺激に対して矛盾刺激の方がいずれも正答率(正答とは聴覚情報を回答すること)が低かったため、マガーク効果は再現されたと思われる。また、矛盾刺激に対して一致刺激の方がいずれも明瞭度が高いと回答した人が多かった。誤答については視覚情報に寄るか聴覚情報に寄るかで個人差があり、後者の方が多く見られた。これは視覚情報よりも聴覚情報に日本人は依存しやすいという先行研究に一致する。動画を制作する際にそれぞれ重視する感覚の情報を弱めれば、融合反応が多く見られると考える。加えて、同様の手法を用いて、ba、pa、maの音声にra、sa、yaの映像を合わせた動画を制作した。高校生17人(健常者 16名、聴覚障碍者 1名)に聞こえ方と明瞭度を4段階で評価してもらった。2つの実験を通して健常者と聴覚障碍者の回答を比較した。聴覚障碍者の方が視覚情報に依存しやすく、これは読唇と日常的に口元に注視する習慣が影響していると考えられる。
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