工場や港湾における重量物の搬送に使用される様々なクレーンは,高速かつ正確に位置決めを行うことが求められる.そのためには,目的位置における残留振動を極力小さくしなければならない.この問題に対しては古くから多くの研究があり,その多くは何らかのセンサでつり荷の振動を検知し,なんらかのフィードバック制御を用いている.しかし,そのためにはセンサなどを取付ける必要があり,コスト高や装置の複雑化を招く.そこで,フィードバック制御を行わず,オープンループ制御によって制御対象の残留振幅を低減する方法も数多く考えられてきた.一方,筆者らは柔軟構造物の位置決め制御において,加速度入力に制御対象の減衰固振動数成分が含まれないとき,自由振動が励起されないという性質から,この条件を満たす簡便な加速度入力パターンの構成法を複数提案し,これらの構成法がばね質量系やはりの並進運動に対して有効であることを報告した.本研究では制御対象を天井クレーンとし,角度に関する非線形性を考慮することで,提案する構成法の非線形系に対する有効性を数値シミュレーション,および実験により検証する.図A1に解析モデルを示す.本研究ではクレーンの駆動部分を台車,ワイヤーとつり荷を振り子とし,台車の加速度は任意に与えられると仮定する.無次元化した運動方程式を導くと次式で表される.θ+2ζθ+sinθ=-x cosθ(A1)ここにζは減衰比である.本研究では式(A1)を線形化せずに台車の加速度xに筆者らが提案する構成法による加速度パターンを与え,数値シミュレーションによりその効果を検証する.構成法は,加速と減速の時間差に関する条件を用いたタイミング決定法,加速度パターンの形状に関する条件を用いたパラメータ決定法,繰返し法,窓関数適用法,およびそれらを組合せる組合せ法を用いる.さらに,図A2に示す実験装置を用いて,いくつかの構成法を用いた位置決め制御実験による検証を行った.得られた結果を以下に示す. (1)加速度入力パターンに系の減衰固有振動数成分が含まれないとき,残留振幅は小さくなり,減衰が存在しない場合は残留振幅をほぼ零まで低減できる. (2)タイミング決定法など窓関数的用法以外の構成法を単独で用いるとき,制振条件がわずかにずれただけで,残留振幅が大きくなる.また,減衰が存在する場合,残留振幅を零にすることはできない. (3)窓関数適用法は移動時間の広い範囲で振幅を著しく小さくでき,ロバスト性に優れている. (4)窓関数適用法を用いなくても,条件を組み合わせる組み合わせ法により,ロバスト性を向上させることができ,制振条件にずれがある場合や減衰が存在する場合についても,残留振幅を小さく,精度が高い高速位置決め制御が可能となる. (5)非線形項の影響により移動距離が大きいと線形系における制振条件からわずかにずれが発生する。この制振条件のずれが大きくなるのは移動距離がワイヤーの20倍より大きく,かつ高速の場合であり,移動距離が小さい場合には非線形の影響をほとんど受けない. (6)搬送制御装置を用いたクレーンモデルの実験により,提案する加速度パターン構成法の有効性を検証した.
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