本稿は,公営交通事業を行う札幌市営の交通事業に関して,札幌市の外郭団体である札幌市交通事業振興公社の沿革と特徴を整理し,そして今後の課題について若干の考察を行ったものである。
同公社は,1988年11月の設立以来,地下鉄駅管理業務の受託を中心にして,市営交通事業の一翼を担ってきた。そして2020年4月1日,札幌市交通局との協議を経て,自主事業として
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の運行を担うことになった。このことにより,業務的にも財務的にも中心的事業だった受託事業に加えて,
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を運行するという,まったく新しい事業を行うことになり,法人として重要な転換点を迎えた。
第1 章では公社の設立経緯とこれまでの事業を,交通局および公社の公表資料を中心にしてまとめた。第2 章では公社の財務的特徴と現況を過去10 年間の決算資料を用いて抽出した。第3 章では,2020 年4 月の
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事業の開始と合わせて策定された軌道運送事業計画,それを含む法人全体の2020-2024 年度中期経営計画の中から重要と思われる点を抽出した。そして,
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の運行事業を担うことになった公社の今後について,一般財団法人である公社にとって,とくに中期経営計画の中で示された「地域への貢献」が重要な取り組みであると捉え,
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事業を中心とするまちづくりは,交通局ではできない地域活性化策を展開できる可能性を秘めているのではないかと私見をまとめた。
なお,本稿は札幌市の交通事業に関する関係団体を中心としたケーススタディである。この札幌市のケースに基づいて地下鉄や
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を運行する他地域の交通事業への一般法則を導き出すのは困難である。しかしひとつひとつのケースを取り上げて積み上げていくことで,公営交通事業体あるいはそれに連なる組織体の継続的事業遂行のために必要な共通の課題が見出せる可能性がある。本稿はそのような視点に基づく事例のひとつである。
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