【はじめに】
我々は,臨床場面で用いる客観的な歩行分析法を確立するために,トレッドミルを用いた三次元歩行分析システムの開発を進めており,現在,その臨床指向的指標の作成を行っている.今回,トレッドミル歩行分析の特徴的表現法であるリサージュ図形を用いて,健常者の正常値:Grand Average(GA)と各片麻痺者の計測値から,異常歩行パターンの定量化について検討した.
【対象】
GAの対象は健常者8名(男性4名,女性4名,年齢26.3±3.5歳,身長165.4±9.5cm,体重57.0±10.3kg),片麻痺者の対象は13名(発症後期間984.2±1416.8日,年齢50.6±17.4歳,身長166.5±7.4cm,体重60.6±9.8kg)とした.
【方法】
三次元歩行分析装置にはKinema Tracer(キッセイコムテック社製)を使用し,サンプリング周波数60Hzにて20秒間計測した.トレッドミル上の設定速度は,健常者が1, 2, 3, 4, 5km/h,片麻痺者は主観的快適速度とした.マーカは,両側の肩峰・大転子・大腿骨外側上顆・外果・第5中足骨頭の計10箇所に装着した.各マーカの軌跡は,平均歩行周期にて時間軸を正規化した後,加算平均処理を施した.さらに健常者のマーカの軌跡は,8名のデータについて,再度,加算平均処理を施し,健常者GAを作成した.
今回は、下肢の6個の各マーカの3平面(前額面・水平面・矢状面)分,計18種類のリサージュ図形の中から、分
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歩行の特徴を捉えていると考えられた外果マーカの水平面のリサージュ図形に着目した.分
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歩行の指標は,「左右方向の最大軌跡長」を「前後方向の最大軌跡長」で除した値とした.各歩行速度に対する,この指標の健常者の平均値±標準偏差値と,片麻痺例の計測値をプロットしたグラフを作成した.さらに計測時の撮影動画を観察し,分
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の重症度を0(なし)から5(重度)までの6段階に評価した.このグラフにおける片麻痺例の偏倚量と視覚的観察による評価結果をもとに,異常歩行パターンの定量化と指標の妥当性について検討した.
【結果および考察】
健常者GAでの外果マーカの水平面運動は,踵接地より後方へ移動した後,遊脚で内側方向を通る周期運動を認めた.一方,片麻痺者では大半が遊脚で外側を通る周期運動を認め,定量化した指標では13名中9名が健常者GAの平均値±標準偏差値から逸脱する結果となった.このうち6名が視覚的観察においても分
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程度が2以上と判断され,残り3名においては,視覚的観察では分
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程度が1以下と判断された.
今回作成した分
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歩行の指標から,異常歩行パターンの定量化における可能性が示唆された一方,今後更なる妥当性の向上のために他指標との関与や,指標の算出法を検討していく必要があると考えられた.
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