瀬戸内領家帯に属する愛媛県
弓削島
には,かつて島中南部に
弓削島
石灰石鉱山があり(四国通商産業局,1957),現在では廃山となっている。この鉱山から産出された石灰岩は領家花崗岩による変成作用を受けており,糖晶質大理石となっている。石灰岩にはしばしば暗黒色の団塊が含まれ,Al, Fe, Tiに富みSiに乏しい特徴を持っており,組成的にはラテライトに近似する。このような岩石は現在,捨て石もしくは露頭として確認でき,同様の産状と岩石が瀬戸内領家帯および四国秩父帯ではいくつか見いだされている。過去に,愛媛県
弓削島
,明神島からはカリ(苦土)定永閃石が新鉱物として記載されており(Shimazaki et al., 1984),西尾・皆川(2003)は愛媛県睦月島においても同様の角閃石の産出を報告した。また,近年,岐阜県春日村からNa-typeの苦土定永閃石の産出があり,新鉱物として認定された(Banno et al., 2004)。他にも定永閃石に関連した角閃石がスカルンやアルカリ岩などからいくつか報告されている(e.g. Mogessie et al., 1986; Sawaki, 1989; Sokolova et al., 2000)。しかし,これまで報告された定永閃石グループにおいてTiの卓越は
弓削島
産のものでわずかに認められる程度であり(Ti=0.51),明らかにTi-typeに属する定永閃石グループは認められなかった。われわれは,
弓削島
産角閃石が他地域産に比較してSiに極端に乏しいことに注目し,Siおよび各元素とTiの固溶関係を調べた。その結果,SiとTiに関しては明らかに負の相関が認められ,一部の角閃石はSi=4かつTi=1を端成分に持つ組成領域(Si<4.5, Ti>0.5)にプロットされた。その他,Shimazaki et al. (1984)と同様にSi>4.5かつTi>0.5の組成領域にプロットされる角閃石も見いだした。これらはすべてMg-rich analogueであり,今回の調査においてFe-rich analogueは
弓削島
では見いだせなかった。Leak et al.(1997)の角閃石分類によれば,Ti>0.5の角閃石はTitano-typeに相当するが,Si<4.5の角閃石については未知である。実験式はそれぞれ,(K
0.79Na
0.20)
Σ0.99Ca
2.05(Mg
0.68Fe
2+1.39Ti
0.66Al
0.76Fe
3+0.45)
Σ4.94(Si
4.45Al
3.55)
Σ8.00O
22(OH
1.80F
0.20)
Σ2.00 および (K
0.76Na
0.23)
Σ0.99Ca
2.04(Mg
1.83Fe
2+1.40Ti
0.54Al
0.71Fe
3+0.46)
Σ4.94(Si
4.73Al
3.27)
Σ8.00O
22(OH
1.70F
0.30)
Σ2.00 である。また,格子定数はSi<4.5, Ti>0.5の角閃石でa=9.964(4), b=18.024(8), c=5.369(3)Å, β=105.46(4)°,V=929.4(8)Å
3 ,Si>4.5, Ti>0.5の角閃石でa=9.965(4), b=18.015(7), c=5.365(4)Å, β=105.49(3)°,V=928.2(9)Å
3 の結果が得られた。両角閃石の組成幅はわずかであり,格子定数にはその結果が反映されにくい。
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