本稿では,石炭と繊維という二つの産業を取り上げ,産業レベル賃金交渉の機能や実態に迫るとともに,その成立・衰退条件について考察する。産業レベル賃金交渉の機能や実態については,産業別労使団体の関与や交渉の及ぶ範囲,交渉手続きについて分析する。成立・衰退条件の考察については,戦後の労使関係の展開や産業別労使団体の組織的・政策的特徴,労働委員会の役割,といった観点から分析を行う。戦後の石炭産業においては,終戦直後に成立した統一交渉が崩壊した後,対角線交渉へと至った。繊維産業では,高度経済成長期における労働組合の攻勢を通じて,中央大手レベルにおいて集団交渉・連合交渉が成立するとともに,各地の中小企業を包摂する地域集団交渉が芽生えた。産業レベル交渉の衰退時期は両産業で異なるが,市場の競争が厳しさを増す中で倒産・廃業が増加し,交渉参加企業が減少したことや経営格差が広かった点は共通する。
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