下歯槽神経とこれに伴行する血管の切断が, 歯髄組織と象牙質形成に及ぼす影響をマウスの下顎切歯において調べた。神経本幹とこれに添って走行する血管を下顎骨内部で切断したものを実験群1, 下顎孔に入る直前で切断したものを実験群2, 血管のみを切断したものを実験群3とした。テトラサイクリンラベリング法により, 切断後7日の象牙質の成長の割合は, 実験群1では10例中9例, 実験群2では8例中6例, 実験群3では6例中2例において減少していた。切断後7日から14日においては, 象牙質の減形成はどの群にも認められなかった。神経線維の切断7日後の一部の個体において, 象牙質形成が維持されていた。さらにまた, 術後14日のすべての個体において, 神経線維の再生が起こっていないにもかかわらず, ほぼ正常な象牙質形成がみられた。切歯形成端部の歯髄に現われたBrdU陽性細胞の数は, 実験群と対照群の問で有意な差を示さなかった。しかし, 第一臼歯の下方に位置する歯髄では, 象牙質の減形成を伴った個体においてより多くの陽性細胞がみられた。透過型電顕観察では, 象牙質の減形成を生じた個体において, 激しい変性や壊死を起こした象牙芽細胞と線維芽細胞が認められた。
これらの結果は, 象牙質の減形成は歯髄の変性, 特に象牙芽細胞の変性によって生じること, そしてこれらの変性は神経の切断よりもむしろ血管の切断によって生じることを示している。
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