1.背景
服飾文化では、「被服の基本型と文化、着装などに関する知識と技術を習得させ、服飾文化の伝承と創造に寄与する能力と態度を育てる。」が目標である。歴史学、民俗学、家政学等の研究と重なる部分もある。しかし、家庭科教育の服飾文化の相違点は伝承と創造への意欲にある。生活の中で、どのように用いられるかという伝承と創造への意欲への授業研究が、課題ではないだろうか。
2. 目的・研究方法
本稿は、家庭科教育における伝統色彩の象徴性を調査し、授業課題に提案することを目的とする。日本三大
御田植祭の一つの香取神宮御田植祭
(千葉県香取市)を選び、文献・現地調査を行った。以上の結果を踏まえ、服飾文化の伝承と創造の課題を提案する。
3.御田植祭
の服飾文化の事例調査
御田植祭
とは、神田を耕作し五穀豊穣を祈願する祭礼である。香取神宮では、現在、耕田式と翌日の田植式が行われている。
第一日目は、田植えに先立ち田の神を迎える祭礼を行う。
鎌・鍬・鋤や、五色の絹に彩られた牛により田を耕す風景を模した行事が行われる。太鼓、仮面を被った人、鎌・鋤・鍬役の人、稚児、田舞、早乙女と続く。田舞は花笠を背負う。その後、赤の布を背に巻いた牛が場内を一周する。早乙女が早苗を植える。早乙女は青地に白の竹の文様の着物に赤の襷掛ける。菅笠を赤い紐でむすぶ。田舞、稚児は白地に赤の袴・襷を着装する。赤が祭礼において、特別な色彩であることが伺われる。楼門に傘が立てられ、白地に赤の線入りである。ここにも赤が認められる。赤が随所に配されていることが伺われる。
第二日目は、前日と同じ装束で早乙女が田の神を拝む。田植え歌を唄いながら、苗を植える。祭員、稚児・早乙女が御神田へと向かう。
以上の調査から、次の結果を得た。
(1)赤が祭礼の中心的な色彩である。
(2)早乙女・田舞・稚児が赤の襷、赤の袴を着装する。
4.考察 家庭科教育における服飾文化の伝統色彩の提案
結果から、家庭科教育における服飾文化の伝統色彩の課題について以下のように提案する。
御田植祭
において、赤が随所に用いられ、早乙女・田舞・稚児は、服飾に襷がけ、袴に赤を着装していることが分かった。
それは、歴史的背景から赤への色彩象徴があり、祭礼における象徴的な色彩として用いると思われる。赤の象徴性とはどのようなものか。福田邦夫は、赤への畏敬を指摘する。古代人にとって赤色は魔除け、厄除けのまじないに使われたことを指摘する。土偶、埴輪には赤く彩色された人物像が多く見出せる。それらは単なる装飾だけでなく祭祀的意味合いを持つと考えられている。この観点から、赤と歴史的背景、日本文化との関係を課題とできると提案する。
以下の3点の家庭科教育の目標に沿った課題として、以下の授業課題が考えられる。
(1)歴史的背景、文化などとのかかわりの理解に、祭礼の赤の色彩象徴の課題が考えられる。
(2)気候、風土、文化により祭礼での赤の装束の用いられ方の相違、類似の課題が考えられる。
(3)伝承と創造は、伝統色彩の赤を用いる年中行事等の身近な生活での伝承を調べ、自らの生活に赤を象徴的に取り入れる課題が考えられる。現在に合わせた装束として、地域に提案する課題も考えられる。
4:結論
家庭科教育における伝統色彩の象徴性の調査を行い、その象徴性を授業課題に提案することを示した。
服飾文化の伝統色彩を家庭科教育に活用するためには、伝統色彩の象徴性を理解し、歴史的背景、文化とのかかわりを分析し、得た知見を伝承と創造へ広げる課題にする必要がある。その一例として年中行事等で用いられている伝統色彩を観察し、また自らが伝統色彩を用いるという試みをすることが提案できる。伝承と創造への意欲をもたせる伝統色彩の象徴性の活用が、今後に残された課題である。
1.香取神宮社務所編、発行、香取神宮、2010
2.佐々井啓編、衣生活学、朝倉書店、2000
3.島崎恒蔵・佐々井啓、衣服学、朝倉書店、2000
4.文部科学省、高等学校学習指導要領解説 家庭科編、開降堂、平成17年1月
5. 福田邦夫、日本の伝統色、東京美術、2005
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