1.目的
従来の韓国の家庭科と技術科は、性別によって女子は家庭科、男子は技術科を別々に履修していた。しかし、男女平等社会への変化に応じて、第五次教育課程(1987年)では、男女が共に学ぶ、「技術・家庭」が新設され、選択科目として履修し、次の第六次教育課程(1992年)では、男女全ての学生が「家庭」と「技術・産業」を履修することになった。さらに、第七次教育課程(1998年)では、「技術・家庭」として統合され、男女が必修に履修する国民基本共通科目として位置づけられている。
しかし、男女必修へと変化して来たのにもかかわらず、男女平等な意識をもつ教育成果は表れていない。特に、現在少子化が非常に進んでいる韓国では、その原因の一つとして、伝統的な
性別役割分業
意識からの脱皮が要求され、そのためには教育が大きくかかわってくる。
少子・高齢化時代にふさわしい男女共通教育を実現するため、その基礎資料として、第七次教育課程で家庭科を習った大学生を対象に、
性別役割分業
意識の形成や、それに関わる家族生活意識を調査した。
2.方法
(1)調査方法
質問紙法によるアンケート調査を行った。
(2)調査対象
韓国慶尚大学校、釜山大学校、全南大学校の学部の1年生から4年生であり、有効回収数の男子126人、女子159人、計285人を分析の対象にした。
(3)調査期間
2010年8月
(4)調査内容
性別役割分意識、結婚観、子育て観や家庭科を学習した後の考え方などを調査した。
3.結果
(1)
性別役割分業
意識を示すため、「男は外で働き、女は家庭を守るべきだ」、「家庭にとって重要なことの最終決定は夫が行うほうがよい」、「職業には性別による、向きや不向きがある」、「男と女は違った育て方をすべきだ」、「男と女は本質的に違う」の5つの項目を調査した。各項目について「そう思わない」(1点)から「そう思う」(4点)とする、4段階尺度によって得点化した。その結果、男子の方が女子よりも全ての項目で得点が高く、男女の
性別役割分業
意識は1%水準で有意差があった。
(2)本研究では、青年期学生の最も身近な環境である家族・親族、学校、友人・知人の3つの要因から
性別役割分業
意識の形成に影響を与えると仮定し、調査を行った。各要因による
性別役割分業
意識の程度を示すため、「男(女)らしくしなさい、男(女)のくせに」と言われたグループ、言われなかったグループに分け、男女別にt検定を行った。その結果、男子は、「家族・親族」、「学校」、「友人・知人」から言われたグループと言われなかったグループによって
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意識の項目に5%水準で有意差があった。一方、女子は「学校」から言われたグループと言われなかったグループにだけ5%水準で有意差があった。
(3)
性別役割分業
意識は近い将来、結婚後の家族生活にも少なくとも影響を与えると考えられる。そこで、将来結婚後の夫婦の家事分担や育児分担の考え方に差があるかないかをχ2検定で調査を行った。その結果、家事分担と育児分担とも男子より女子の方が「夫婦が同じように分担する」が最も多い半面、男子の方は「妻が主に行うが、夫も行う」が多く、1%水準で男女に差があった。
(4)性別役割意識の形成や家族生活と最もかかわりのある、家庭科を学習した後の考え方について調査をした。その結果、「子育ての意味と親の役割の理解が深まった」に5%水準で、「家庭の様々な仕事について理解が深まった」、「将来の生き方や進路に積極的に考えるようになった」に1%水準で男女の差があり、女子の方の平均値が高かった。さらに、男子の場合、家庭科を学習した後の考え方の得点の上位グループと下位グループにより、
性別役割分業
意識の差が5%水準であった。
第七次教育課程の家庭科は男女両性平等な教育の実現を目的にしているにも関わらず、その教育を受けた大学生男女の性別役割意識の差は顕著である。
性別役割分業
意識を改革するよう、教育を見直し、より実践的な家庭科教育を工夫する必要がある。
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