このたびのSTD特集はそれぞれ異なった診療施設での性感染症疾患の実態をまとめていただいた.診療科は肛門科,泌尿器科,婦人科,消化器科など特徴的な科を網羅している.そして思いも拠らぬほどSTDが性活動の活発な20~30歳代の若者,特に女性患者に増加し,深く静かに蔓延している実態が浮き彫りになって驚いている.従来STDは肛門科に集中しているように思っていたが,実態は第一線のクリニックでの潜在的な患者の対応が圧倒的に多いようだ.
STDの概要では厚生労働省の性感染症報告によれば,疾患としては淋菌感染症,性器クラミジア,性器ヘルペス,尖圭コンジローマ,梅毒後天性免疫不全症候群(HIV感染,エイズ)が中心である.性器クラミジア,淋菌感染症が減少傾向を示しているのに対して,性器ヘルペス,尖圭コンジローマが増加傾向を示している.
梅毒は全般的に男女とも年々減少傾向にあり,2001年からは男性は急激に減りはじめたが,女性はほとんど増減なしである.
後天性免疫不全症候群は全体に増加しているが,男女差が開いてゆく傾向にある.
ここで,統計から読み取れることをまとめてみると,(1)増加しているのは性器ヘルペス,尖圭コンジローマとHIV感染である.(2)20~30歳代の若年者においては,クラミジア,性器ヘルペス,尖圭コンジローマは女性が多く,それ以後の年齢では男性が多い.(3)15歳~20歳では淋菌感染症以外はすべて女性優位である.
これらの現象の社会的背景を考えると,なによりも10歳代女性の性活動の低年齢化,性行為の多様化,複数パートナーまたは不特定多数との接触がある。
今回の特集では21世紀における新しい性感染症に対する取り組みとして,具体的には常に複数の性感染症の存在を念頭に入れて精査,治療すべきであること.さらに難治性の性感染症の奥には常にエイズを疑っておくこと,が大切である.
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