二〇世紀末、文学の停滞がいわれる時期がありました。しかし二〇〇〇年代に入って、「もしかして文学は流行ってる?」と思われる現象も散見されるようになりました。片山恭一「世界の中心で、愛をさけぶ」や、綿谷りさ「蹴りたい背中」のようなミリオンセラーが生まれたり、ケータイ小説が爆発的にヒットしたり。最近のトピックスでいえば、「蟹工船」のまさかのヒットなどがあげられましょう。いずれにしても旧来の文学観では測れないような事態が起きていることは確実で、それは二〇〇〇年代にデビューした作家たちの作風にも反映しています。マンガやゲームなど、文学に対する他メディアの影響がしきりにいわれたのは八〇年代ですが、近年ではそれはもう「当たり前」すぎて、だれも指摘しなくなりました。「表現形式の新しさ」と「物語内容の古さ」が同居しているように見える現在の状況を、書く側と読む側、両方の変容との問題から考えたいと思います。
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