1.水質汚濁が進み過栄養段階に達した現在の手賀沼において,カモ類の沼の利用状況と水質汚濁との関係を検討するために,沼全域を対象として,1986年12月17•18日,1987年1月9日•10日の計4回,各カモ類のいた区画•種類•個体数•生息環境•行動などを調査した。
2.4日間の調査で確認したカモ類は13種で,総個体数の平均は,1,988±378(SD)羽となった。各種類が占める割合は,カルガモが32.3%と最も優占しており,以下順にオナガガモ(17.6%),マガモ(16.2%),コガモ(16.0%),ハシビロガモ(10.8%),オカヨシガモ(3.9%),ミコアイサ(2.5%)となった。この他,キンクロハジロ,ホシハジロ,ヒドリガモ,オシドリ,トモエガモ,ヨシガモなどが記録された。
3.このうち,ハジロ類•ヨシガモ•ヒドリガモなど,沼内に生息していた大型の水生生物を採餌していたと考えられる種類は,沼の干拓事業と水質汚濁に伴う餌生物の激減によって現在ほとんど飛来しなくなったと考えられた。
4.現在優占していたカルガモ•マガモ•オナガガモ•コガモの4種は,開放水面や漁網などでの休息の割合が高かったが,分布が種ごとにやや異なっていた。この4種の飛来数が過去に比べて激減した原因を,水質汚濁との関連で検討する場合,夜間も含めて生息環境と行動の調査を行い,さらに沼および沼周辺の採餌環境としての質の変化なども再検討しなければならないことを指摘した。
5.採餌割合が高かった3種のうち,ハシビロガモは,下沼北部の沿岸帯を中心に分布し,漁網周辺に集中して水質汚濁にともない増加してきた動物プランクトンを効率よく採餌していると考えられた。採餌個体が漁網周辺に集中した理由を明らかにするためには,今後個体レベルでの採餌行動の解析を行うと共に,各環境ごとの動物プランクトン現存量の測定法を再検討する必要を指摘した。
6.ミコアイサは,開放水面を中心として,現在もある程度沼に生息するモツゴ•テナガエビなどを採餌し,手賀沼を餌場として有効に利用していると考えられた。
7.オカヨシガモは生活雑排水が流入する大津川河口部に集中して採餌しており,水質汚濁との結び付きが予想されたが,餌を特定することが困難であり,今後さらに食性調査を行う必要があると考えられた。
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