【目的】2010年度にチーム医療に対して診療報酬の加算が新設されるなど、近年、多職種参加型医療が注目されている。その中で理学療法士(以下、PTと略)が他の職種の教育に関わる機会も増加している。筆者も某看護専門学校にて外部講師として「成人看護学」の講義を担当している。しかし、PTの教育と他職種の教育では専門性の違いなどの様々な相違点がある。そこで、筆者は
教務
である看護師と連携し、PTである筆者と
教務
である看護師の2人で分担して講義を行っている。今回、この取り組みから外部講師としてPTが看護教育に関わる上での役割と意義、学生に対する教育の効果を検証することを目的とし、本研究を行った。
【対象と方法】対象はA看護専門学校の
教務
(看護師)4名と、2006〜2008年度の看護学科の学生(1年生)計77名である。方法は
教務
(看護師)には2010年10月に半構造化面接法による調査を行い、面接記録により各設問ごとに要点をまとめ分析した。学生には講義最終日に質問紙法によるアンケート調査を行い、各設問ごとに数値を集計し分析した。設問内容は、
教務
(看護師)には1.講義を分担する事のメリットとデメリット、2.
教務
からPTに求めること3.教育段階でのPTの関わりの影響、を設定した。学生には1.講義形式、2.講義の満足度、3.PTが担当する実技について、4.自由記載の感想を分析対象とした。
【説明と同意】調査に先立ち、調査目的と対象者のプライバシーの保護(面接、アンケート双方ともに個人が特定されないよう、無記名とする)、調査結果の目的外使用を行わないことを口頭で説明し同意を得た。また、結果の学会等での公表についても同意を得た。
【結果.1】
教務
への面接調査:設問1.ではメリットの中で最も多かったキーワードが「リハビリテーションの専門知識」であり、「リハビリテーション関連の最新情報」、「チーム医療への興味・関心を持たせる」と続いた。また、全ての
教務
が「デメリットはない」と回答したが少数ではあるが「用語解釈の違い」や「知識量の違い」も上がっていた。設問2.では「実際のリハビリテーション実施過程」が最も多く、「杖や福祉用具の選択」が続いた。設問3.では「チーム内の役割分担」が多く、「看護にはない考え方」や「他職種への接し方」が続いた。
【結果.2】学生へのアンケート調査:設問1.では「現状で良い」が75%、次いで「PTのみ」が15%、「わからない」が10%であった。設問2.では「満足」と「やや満足」が42%、「どちらでもない」が16%であり、「不満」はなかった。設問3.では「満足」が46%、「やや満足」が20%、「やや不満」が16%であり、「不満」という回答はなかった。設問4.では「PTという職業に対する興味・関心の増加」が最も多く、「実技時間増加」など講義内容への要望、「看護師としての関わり方」などチーム医療への興味・関心が続いた。
【考察】
教務
への面接からは、学校教育段階においてPTに限らず様々な職種が関与する事は必要であり、職務上も有益であると考えていることが分かった。また、現場での関わり方などのより具体的な講義内容を希望している事が分かった。一方、講義分担でのデメリットは感じられないとしながらも、それぞれの職種専門性と看護の専門性との違いや看護に必要な知識範囲の考え方の違いなどに憂慮している事も分かった。学生からは、授業形態での混乱はなく、満足度は高いことが分かった。また、PTが教育段階から関われることで、将来的には実際にチーム医療を行う際に職種間のハードルを無くし、他職種への理解が推進されるのではないかと期待できることが伺えた。実技についての不満は、自由回答から実技時間数が少ない事への不満であり、実技演習内容の不満はなかった。講義が1年生の後期ということもあり、臨床実習の際に実際の患者を担当する場合に、チーム医療の基礎知識を持っておく事は実習を行うときにも理解を深めることの一助になるのではないかと考えられる。
よって今後、PTが看護教育に関わる際にはPT学生への教育との違いや、看護教育の体系や職種特性を理解した上で、連携をとりながら進めること、看護教育機関の中でリハビリテーションがどのように位置づけられているのかをPT側が十分に把握し、看護の実践や国試対策に役立つ講義内容を用意する必要があると考えられる。
【理学療法研究としての意義】PTが外部講師として看護教育に関わる事は、将来的にチーム医療に関わる「チームメンバー」育成であり、他の職種への意識付けになるとともに教育の違いを理解する事でPTと看護師との恊働にも良い影響を及ぼすものと考える。また、それぞれの教育状況を知ることでPTの教育の質の向上にも繋がるのではないかと考える。
抄録全体を表示