チンパンジーを対象としたアラビア
数字
の系列学習をおこなってきた。おとな3、子ども3、合計6個体(6歳から30歳、2007年4月現在)を対象として、1から9まで(1個体のみ0から9まで)の
数字系列のすべての組み合わせで数字
を昇順に選べるように訓練した後、その記憶容量を検討した。訓練段階の「
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系列課題」は、タッチパネルモニタにあらわれた
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を小さい順に指で触れて消していくものである。ただし、「
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記憶課題」では、最も小さい
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に触れたとたん、画面に残ったすべての
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が白く塗りつぶされた四角形に置き換わった。どの
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がどの位置にあったかを記憶し、
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の昇順に四角形すべてに触れて消せば正解となる。この課題は
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2個の段階から始め、個体ごとの学習進度に応じて
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9個までの段階を設けた。その結果、記憶を必要としない「
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系列課題」では、両群の学習進度に差はなかった。しかし、「
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記憶課題」では、子どもはおとなより学習進度が速く成績も優れていた。とくに子ども1個体(アユム、7歳)は、9個の
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記憶課題でも約80%の高い正答率を示した。そこで、アユムの成績を、
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記憶課題を長年経験してきた母親アイや大学生のそれと比較した。アイや大学生の場合、最初の
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に触れるまでの反応時間は、画面上の
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の個数に比例して長くなった。それに対し、アユムではほぼ一定だった。また、
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が画面にあらわれる時間を制御した「時間制限課題」では、呈示時間が短くなると、アイや大学生の成績は極端に落ちた。それに対し、アユムではほぼ一定だった。以上から、
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の記憶課題において、一般にチンパンジーの子どもはおとなより優れた記憶容量をもつことが示唆された。また、眼球運動の生起を抑制する短時間呈示条件の結果から、アユムのばあい、
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をひとつずつ見るのではなく、画面全体を写真のような画像として捉える方略をとっていることが示唆された。
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