福島県いわき市のNW-SE系の湯ノ岳
断層
に沿って,2011年福島県浜通りの地震(2011年4月11日,Mj7.0)によって,N-S系の塩ノ平
断層と共に正断層
センスの地表変状が出現した.湯ノ岳
断層
では,いわき市田場坂のボーリングやトレンチ調査の結果から,MIS5e相当の中位段丘面を構成する段丘堆積物に,
断層
活動の累積を示す変位が認められている(東京電力,2011).同地点において,活
断層と非活断層
を区別する指標を抽出する目的で,2018年にトレンチの再掘削調査が行われた(佐伯ほか,2019).今回は,このトレンチから採取した湯ノ岳
断層
及びその周辺に分布する小
断層
の研磨片・薄片の観察結果を中心に報告する.
【トレンチの地質】
2018年田場坂トレンチでは湯ノ岳
断層
を介して,下盤側に古第三系白水層群石城層の細粒砂岩,上盤側に下部中新統湯長谷層群水野谷層のシルト岩が分布している様子が観察された.湯ノ岳
断層
の破砕帯は幅約1m弱で,
断層ガウジ及び断層
角礫からなる.主
断層
のF1
断層
は段丘礫層の基底面を数十cm程度正
断層
センスで変位させているが,破砕帯及びF2
断層
は段丘礫層に覆われている.破砕帯内部では,主に
断層角礫において逆断層
センスを示す複合面構造が観察されるが,これらは正
断層
センスのR1面に切られている.このほか,水野谷層のシルト岩や砂岩を切り段丘礫層に覆われる複数の小
断層
(F3
断層
〜F7
断層
)が確認された.
【観察試料】
各
断層の断層
面を含む定方位試料を採取し,研磨片及び薄片観察を実施した.研磨片はF1
断層
,F2
断層
,F6
断層
及びF7
断層
を観察対象とし,薄片は全ての
断層
の試料を観察した.また,F1
断層
の試料では,micro-CTを用いて破砕帯の内部構造を立体的に観察した.
【湯ノ岳
断層
の変位センス】
観察結果から,F1
断層
は幅20cm程度で積層構造を持つ
断層
ガウジを伴い,
断層
面はシャープで連続性が良く,直線的かつ明瞭である.最新活動面付近では正
断層
センスを示し,
断層面から離れた部分では逆断層
センスを示す変形組織も認められた(図1).micro-CT観察の結果から,逆
断層
センスを示すP面は鉛直方向で最も明瞭であり,逆
断層
センスの運動時に水平成分がほとんど伴われていなかったと考えられる. F2
断層
は破砕帯と水野谷層を境する
断層
であるが,
断層
面は大きく屈曲し,それ自体が正
断層
センスのR1で切られているような形態を示す.研磨片・薄片観察の結果では,幅約5mmの
断層
ガウジを伴い,正
断層
センスの変形組織が認められた.
【周辺の小
断層
の変位センス】
小
断層
のうちF3
断層
,F4
断層
及びF6
断層は高角断層
,F5
断層
及びF7
断層は層面すべり断層
で,いずれも幅数mm程度の薄いガウジを伴う.研磨片・薄片観察の結果から,高角
断層
のF3
断層
とF4
断層では正断層センスと逆断層
センスの両方の変形組織が観察された.一方,層面すべり
断層
のF5
断層
とF7
断層
,及びF7
断層
と共役とみられるF6
断層
では,逆
断層
センスの変形組織が卓越していた.
【湯ノ岳
断層
の活動史】
観察結果から,湯ノ岳
断層は逆断層から正断層
へ運動方向が反転し,いずれの運動も水平成分を伴わない純粋な縦ずれであったと考えられる.Lin et al.(2013)は,藤原町阿良田北西の湯長谷層群平層と水野谷層が湯ノ岳
断層
で接する露頭(東京電力,2011)の構造観察を行い,正
断層
センスの変形構造のみを記載していることから,湯ノ岳
断層は新第三系堆積後には主に正断層
センスの活動だった可能性がある.一方で,青木ほか(2021)は塩ノ平
断層において前期中新世の礫岩が逆断層
センスの変形を被っているとしており,運動方向の反転は前期中新世に限定できる可能性がある. また,最近活動していない小
断層
にも,運動方向の反転が認められる事例が見つかった.これらの小
断層
の活動も広域応力場の変化を反映していると考えられるが,湯ノ岳
断層
の近傍に位置していることから,湯ノ岳
断層
の活動に伴って形成された局所的な応力場の影響を受けた可能性も否定出来ない. 今回観察したトレンチは新第三系と古第三系が湯ノ岳
断層
で接する場所であるため,それ以前の活動はこの破砕帯には記録されていない.湯ノ岳
断層
の活動を総括するためには,より古い基盤岩中の破砕帯を観察する必要がある.
【引用文献】
青木和弘ほか,2021,応用地質,62,64-81.
Lin A. et al., 2013, Bull. Seismo. Soc. Amer., 103, 1603-1613.
佐伯 健太郎ほか,2019,日本地質学会第126年学術大会講演要旨,R15-P-5.
東京電力株式会社,2011,湯ノ岳
断層
に関する追加調査結果の報告.82p.
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