【はじめに】
新潟県中越地震
は高齢化の進んだ中山間豪雪地に甚大な被害を与えた。各方面からの支援により災害復旧の成果があがっているが、救急医療面で今後に残された課題も多い。地震後の救急診療に携わった立場から当院における診療上の問題点を検討した。
【患者の動向】
地震直後から2週間の救急外来患者総数は延べ3356名、1日平均239名である。診療科別では、前半は内科患者が少なく外科・整形外科領域の外傷患者が多かった。数日後から内科患者が増加し、慢性疾患の増悪と不眠・不安感を訴える患者が多い傾向が見られた。各科別患者数は、内科1528名、整形外科791名、外科386名、小児科293名、産婦人科140名、脳外科29名、その他189名であった。
【問題点】
1)電力供給遮断によりX線撮影・現像装置を使用できず、移動X線装置搭載車の応援を依頼した。
2)「広域災害・救急医療情報システム」が稼動せず、また、地方自治体、地区医師会、各医療機関同士の地域内連携が不十分であったために、救急医療機器・材料の不足、備蓄食料の払底、人的援助の要請などの被災状況を知らせることができず、その後の支援体制の適正運用にも支障をきたした。
3)病病・病診連携が確立していないために重症患者の転院・搬送に支障をきたし、医師間の個人的な連携の範囲で行なわざるを得なかった。
【考察】
救急患者の治療に当たって高齢者に対する心身のケアは看過できない。農村地帯とはいえ、高齢化率23%の当地では独居老人や老人世帯も少なくなく、生活全般にわたるきめ細かな長期間のケアが必要なのは都市の場合と同等である。いわゆるライフラインの遮断によって医療機器が使用できなくなる障害を除去して救急診療の質を向上させるには、自家発電対応の機器を設置するか、車載型にして被災地に派遣するなどの対策が必要と思われる。これはX線装置にとどまらず、応用範囲が拡大できるであろう。また、災害時の情報伝達手段を確立することにより、当院で被災数日後に経験した医療物資や食料などの不足を回避できるであろう。支援物資の氾濫ともいえる状況がその後に出現したが、必要時の見極めが大切である。
【結語】
新潟県中越地震
で経験した救急診療にかかわる問題点の一部を検討した。
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