本稿の目的は,海野幸徳の社会事業の定義を検討することによって,「超越的社会事業」の体系的位置を見定めることにある.海野幸徳の社会事業の定義は,「消極的社会事業」,「積極的社会事業」,「綜合的社会事業」,「超越的社会事業」の四つの概念から構成される.このうち,「超越的社会事業」は,海野社会事薬学の「観念論的形而上学的」性格を示すものとして,これまであまり顧みられることがなかった.「超越的社会事業」は,どのような意味で「観念論的」であり,「形而上学的」であるのか.「超越的社会事業」は,それ以外の三つの社会事業とは原理的に異なる次元にあり,そのほかの社会事業の目的であると同時に起源でもある.その意味で,「超越的社会事業」は,「理念」として「統制原理」の働きをしている.海野とその批判者たちは,「超越的社会事業」を「構成原理」であると誤解していた.
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