【はじめに、目的】ローカル筋の機能不全は
最長筋
(以下LM) や腸肋筋といったグローバル筋の過活動を誘発し, 非特異性腰痛の一因として認められる。先行研究では, 腹横筋(以下TrA) の収縮により胸腰筋膜を介した脊椎の分節的安定性が向上すると報告されている。また, TrA筋厚や多裂筋横断面積に左右差を認めたとの報告もある。臨床では, 腰痛患者のグローバル筋に筋緊張の左右差が生じていることを多く経験する。本研究では, TrA収縮時にLM筋硬度に左右差が生じる可能性があると考え, 二台の超音波画像診断装置を用いて安静時とTrA収縮時の筋硬度変化を比較検討した。
【方法】 対象は健常成人男性20名(平均年齢21.3±0.8歳) 。LMの筋硬度は超音波画像診断装置(Preirus) のReal-time Tissue Elastography(以下RTE) を用いて測定した。TrAのモニタリングには移動式超音波診断装置(ARIETTA Prologue) を用いた。測定肢位は, 肩峰からの床への垂直線上に体幹を保持するよう指示し, 骨盤前後傾中間位, 股関節屈曲90°, 股関節内外転中間位, 膝関節屈曲90°の端座位とした。課題動作は安静座位とdrow-in座位とした。超音波画像を用いてdrow-inによるTrAの収縮を視覚的にFeedbackし, TrA収縮を確認しながらLM筋硬度を測定した。LMの測定は, 第4腰椎棘突起を画像上指標とし, 短軸像を抽出した。TrAの測定は, 臍高位を指標に腹横筋筋膜移行部の長軸像を抽出した。RTEを用い安静時およびTrA収縮時のLM筋硬度を左右1回ずつ撮像した。なお, 測定はランダム化した上で実施した。筋硬度の測定では, 音響カプラを基準物質(A) とし, LM(B) の相対的硬度(B/A) を算出した。安静時LM筋硬度とTrA収縮時LM筋硬度の変化率({TrA収縮時LM筋硬度-安静時LM筋硬度}/安静時LM筋硬度) を求めた。統計学的処理にはSPSSver.21.0を使用し, 左右のLM筋硬度変化率をウェルチのt-検定にて比較した。なお, 有意水準は5%未満とした。
【結果】 右側LM筋硬度変化率は0.26±0.80, 左側LM筋硬度変化率は-0.18±0.54であり, 右側LM筋硬度は低下した。左右のLM筋硬度変化率を比較すると有意差(p<0.05) を認めた。
【結論】RTEにて右側LM筋硬度変化率と左側LM筋硬度変化率を左右比較した結果, 有意に左右差を認めた。相対的硬度(B/A)の高値は硬度の低下を示すことから, 右側LM筋硬度は低下傾向であると考える。先行研究によると, TrA収縮時に後方の筋付着部を緊張させ, 外側方向へ牽引することで腰椎伸展運動が生じると報告されている。また, 胸腰筋膜深葉は横突起に付着しており, TrA収縮の大部分は胸腰筋膜中層を経て伝達されるため, 深葉と比較してと浅葉の張力は低下すると考えられる。また, Kouwenhoven JWMらが報告した椎体の回旋方向の法則性に従うと, TrA付着部レベルの椎体は右回旋位にあり, 右胸腰筋膜の張力が高いことが考えられる。従って右TrAが収縮しやすい環境であり, 右胸腰筋膜深葉の張力や位置の変化によりLMの筋内圧低下が起こり, 相対的筋硬度(B/A)が低下したと考えられる。
【倫理的配慮,説明と同意】被験者にはヘルシンキ宣言に基づいて本研究の目的や方法や研究による利益・不利益などを書面にて説明し, 同意書への署名により同意を得た。参加は自由意思に従うもので, 得られたデータや個人情報は匿名加工情報対応表を用いて厳重に管理した。
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