高齢で発症し, 上肢の姿勢振戦あるいは頸部の振戦を有するが, 振戦以外の症状を呈さず, 原因疾患の明かでない「老人性振戦」について臨床・生理学的に検索し, その特徴を検討した.
60歳以上で発症し, 上肢の姿勢振戦を主徴とする男6例, 女10例, 計16例 (検査時平均年齢73.4歳) の患者の上腕二頭筋, 上腕三頭筋, 前腕屈筋群, 前腕伸筋群の表面筋電図を記録し, 振戦の周波数を測定するとともに拮抗筋同士が交代性に活動しているか否かについて調べた. 一部の例では手関節を機械的に急速に背屈または掌屈させ, 振戦の周期の変化をみた. 同様の検査を臨床的に
本態性振戦
と診断された, 発症年齢60歳末満の男15例, 女7例, 計22例 (検査時平均年齢54.1歳) でも行い対照とした.
振戦の周波数は老人性振戦で6.2±1.3Hz (平均±SD), 対照群で7.3±1.5Hzと, 前者で低かったが, 対照群でも検査時に60歳以上の患者では6.0±0.8Hzと低く, 周波数は検査時年齢と負の相関を示し, 発症年齢との関連はなかった. 拮抗筋同士の筋放電は, 老人性振戦では15例で相反性を示した. 対照群のうち7例では拮抗筋同士が同期して活動していたが, 検査時に高齢の患者では相反性放電を示す例が多かった. 手関節に機械的刺激を与え, 筋に伸張を加えた例では全例で, 振戦の周期が re-set された.
以上より老人性振戦は周波数が低く, 拮抗筋同士が相反性放電を示す例が多いが, 若年発症
本態性振戦
でも検査時に高齢の患者では同様の態度をとり, こういった現象は発症年齢よりも検査時年齢に依存し,
本態性振戦
の一般的な特徴と考えられた. この結果は老人性振戦が
本態性振戦
の一型であるとする考えを支持していた.
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