目的:夜間二次救急を対象として患者が発生してから病院に収容されるまでの流れをモデル化し,現行制度である病院群輪番制の導入ケースと導入しないケースで,救急患者の搬送時間と医療機関への搬送患者数にどのような影響があるのかを,シナリオ分析から判断する.方法:Agent Based Modelingのアプローチでモデルを構築する.複数地域での検証を行い,複数のシナリオで輪番制度の評価を行うことで,モデルを現実社会へ適用する有用性を示す.結果:(1)地方都市を想定した地域では,輪番制度を導入していない場合,輪番制度を導入している場合ともに地域医療の主軸となっている医療機関へ搬送されている人数が多かった.また,当直させている医師の数が少ないにもかかわらず,人口の多い地域に立地していることで搬送受入れ人数が多い医療機関では,輪番制度を導入することで負担を軽減することができた.(2)大都市を想定した地域では,輪番制度を導入していない場合,当直させている医師の数が多い医療機関へ搬送されている人数が多いことが確認できた.また,輪番制度を導入している場合,医師の数が少ないにもかかわらず患者の人数が多かった医療機関の負担を軽減することができた.(3)過疎地域を想定した地域では,輪番制度を導入していない場合との輪番制度を導入している場合ともに,地域の医療機関にまんべんなく均等に救急患者が搬送されていた.結果(1),(2)に比べ,特定の医療機関に負担がかかっていないにもかかわらず,輪番制度を導入することで平均搬送時間だけが長くなった.(4)過疎地域に適用した改善シナリオでは,輪番制度を導入していない場合との輪番制度を導入している場合ともに,地域の医療機関にまんべんなく均等に救急患者が搬送されている.しかし,改善前の結果と比べ圏外へと搬送される救急患者が比較的減少した.結語:本研究では,モデルの実社会への有用性を示した.今後,モデルの妥当性を高めていくことも重要であり,モデルの妥当性を評価するには,公開されているデータだけでは難しく,地域医療に従事した専門家の協力が必須であると考える.
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