水道事業は,水道法により基本的に市町村が運営するとされているが,水源・財源の確保,技術力の維持等の問題から,市町村域をこえて広域的な事業運営が行われることが多い.東京都多摩地区では当初,各市町村によって水道事業が運営されていたが,現在は多摩地区全29市町のうち,武蔵野市,昭島市,羽村市,檜原村を除く25市町で
東京都水道局
による水道事業運営が行われている.本研究では,東京都多摩地区の水道事業が
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へ統合されている過程を追うことで,広域化の効果,課題を考察する.
東京都多摩地区では,1960年頃から人口の急増に対応した水源の枯渇,施設整備のための財源の不足が問題となる.これに対応し,
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から多摩地区市町村への分水が行われ,水源の枯渇は解消されるが,東京都区部と比較して,多摩地区市町村の一般市民向けの水道料金が高額であったことから,都民間での格差が指摘され,多摩地区市町村の水道事業の大部分は,
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へ統合されることとなる.しかし,統合議論の過程で,職員の身分や市町村の自治権の問題から,多摩地区市町村水道の職員組合が反発し,
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が多摩地区市町村へ水道事業運営の大半を委託する事務委託方式での統合が採用されることとなった.1973年以降順次統合を進め,現在までに25市町が統合された.事務委託方式の下では,
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の役割は多摩地区市町で不足する用水の供給に関わる業務と,多摩地区水道事業の財源の保証のみであり,水道事業の広域化は部分的であった.その後,事務委託の非効率性が問題となり,2004年以降,
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に統合した多摩地区市町の水道事業運営を,
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へ完全に移行する事務委託の解消が行われ,2011年度末に完了予定である.
多摩地区では,水道事業が段階的に
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へと広域化された.多摩地区市町村の都営水道局への統合が行われた当時,多摩地区水道事業の問題点は水源・財源の不足であり,この統合はこうした問題を解決するものであった.一方,事務委託の解消が提起された1990年代半ばには,人口の減少の予測,節水機器の普及から,水需要の減少,そして水道事業の減収が見込まれ,事業運営を効率化する完全統合が行われたと考えられる.多摩地区市町に水道事業に関わる部署がなくなる今後,都と多摩地区市町の水道事業に関する新たな関係の構築が課題となっている.
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