表現の自由は、第一義的には、表現者の「自己実現」の価値を基本に置いた「自己統治」のために保障されていると考えられている。しかし、表現者としては、表明した意見等を、より多くの者に伝え、その正当性を確証し、それを信頼すべきものと認識されるようにしたい。また、表現の受け手としても、より多くの情報に接することが有益であり、また、マス・メディアによる社会的影響力が増大するに伴い、表現の受け手の自由(聞く自由、読む自由、視る自由)を保障する必要が生じ、表現の自由には「知る権利」も含まれると解されるようになった。
このような表現の自由(「知る権利」を含む。)は、『国家』が国民全体に対して保障しているのであり、したがって、目や耳の不自由な方にも表現の自由は保障されており、その保障による便益は、目や耳の不自由な方も享受できなければならない。しかし、目や耳の不自由な方については、その便益を享受するための特別な措置が必要であることから、「知る権利」についても、より積極的な権利として各種立法措置が講じられている。
このような現状にあって、字幕番組及び解説番組は増加しているが、それらの品質の向上を求める意見等がある。一方、ISO/IEC JTC 1では『視聴覚コンテンツの音声解説に関する指針』等を策定し、目や耳の不自由な方の視聴覚コンテンツへのアクセシビリティを高めようとしており、その対象には放送番組も含まれている。しかし、同指針は、視聴覚コンテンツの制作を、いわゆる規格品の製造と同じように考えていると思われ、その効果は期待できない。
そこで、視聴覚障害者等向け放送の品質向上のために、標準化という手法の適否、当該標準化の取組主体について考察した。その結果、放送関連機器の機能等に関して、その製造事業者等が、放送事業者及び目や耳の不自由な方の意見等も勘案しつつ、字幕放送又は解説放送のための最低限の要求条件を検討、ITU等を通じて標準化するのが適当との結論に達した。これにより、字幕又は音声解説制作者等の創意工夫が促されることを期待したい。
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