【目的】平成14年5月より心臓血管外科術後リハビリテーション(心外リハ)にクリティカルパス(パス)を導入し、日本心臓リハビリテーション学会において導入前後の比較検討を報告した。パスの導入は、合併症の予防と早期退院に効果的であることが確認されたが、緊急手術や術前からの合併症によってパスが遅延する症例も認められた。そこで、パス導入後の実態と遅延理由を調査したので報告する。
【対象と方法】平成14年5月から平成15年10月までに当院に入院し、心外リハを施行した患者89名(男性45名、女性44名、平均年齢61.2±13.3歳)を対象とした。対象の内訳は、冠動脈バイパス術後(CABG)37名、弁置換術後(VR)39名、その他の開心術13名である。以上の対象について後方視的に診療記録より、手術の緊急度、ADL進行度および阻害因子、退院時歩行自立度について調査した。
【統計手法】ADL進行度は、Mann-WhitneyのU検定およびSpearmanの回帰分析、その他の項目はχ二乗検定を用い、有意水準は5%とした。
【結果】手術の緊急度についてはCABG 8例が緊急手術であり、その他全例は待機手術であった。CABGの中で緊急手術と待機手術を比較すると、抜管日数(1.4±1.0日、0.4±0.6日、p<0.05)が有意に遅延していた。また、術式のon pumpとoff pumpでは抜管日数(1.5±1.0日、0.4±0.7日、p<0.05)が有意に遅延していた。ADL進行度はCABGで椅子座位3.5±1.6日、トイレ歩行5.0±1.8日、退院19.3±6.3日、VRで椅子座位3.1±1.3日、トイレ歩行4.8±1.7日、退院20.3±10.0日、その他の開心術で椅子座位2.6±0.8日、トイレ歩行6.1±4.5日、退院16.4±4.4日であった。阻害因子は術後抜管やドレーン抜去状況が主なものであった。また、退院時歩行自立度は、歩行自立群と非自立群では年齢に有意差を認め(p<0.05)、術前歩行自立群が有意に多かった(p<0.05)。
【考察】心外リハにおいて、パスを導入したことで効果的に早期退院が可能となった。しかし、緊急手術例やon pump例は術後の全身状態管理や合併症治療に時間が必要となるため抜管が遅延する場合があり、その後のADL進行度も遅延していた。術後胸水は酸素化を障害し酸素投与下でのリハビリテーションを余儀なくされ、ドレーン持続吸引なども必要となる場合があり、トイレ歩行などの開始時期を規定する因子となっていた。
【まとめ】心外リハにおけるパス導入後の実態と遅延理由を調査した。CABG例では緊急手術およびon pump手術例で抜管が遅延していた。パスの進行度はほぼ想定通りであったが、術後抜管やドレーン抜去状況がトイレ歩行などのADL進行度を規定していた。退院時歩行自立度の規定因子は術前機能に依存していた。
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