【目的】多くの器質的障害による有痛性肩関節屈曲外転制動(以下、肩関節制動)症例の臨床所見として上腕骨頭の前上方偏位が認められる。器質的障害による肩関節制動の治療の際、上腕骨頭の前上方偏位に対する評価と治療が重要であると考える。我々は肩関節制動症例に対し系統発生学的視点に基づいた段階的診療法を行い、器質的障害による肩関節制動症例を鑑別している。今回、系統発生学的視点に基づいた段階的診療法を施行し、筋肉および関節機能不全の評価と治療を行った後に残存した器質的障害による肩関節制動症例の整形理学療法を検討する。
【方法】対象:2001年12月16日から2002年12月28日までに当院外来で肩関節制動を訴えた初診患者267名(男性124名、女性143名)の内、段階的診療法に基づき筋肉および関節機能不全の評価と治療を行った後、肩関節制動が残存した症例47名(男性22名、女性25名)である。
診断方法:対象症例に対し段階的診療法に基づき最初に筋肉機能不全の評価と治療を行い、肩関節制動が残存した場合、次に関節機能不全の評価と治療を行った。この段階で肩関節制動が残存した症例はMRI検査を施行した。
【結果】筋肉および関節機能不全の評価と治療を行った後、なお肩関節制動が残存した47名の全症例に上腕骨頭の前上方変位が認められた。更に、MRI検査を施行した結果、47名の全症例に器質的障害が認められた。47名の内訳は棘上筋腱損傷例21名、上腕二頭筋長頭腱炎例11名、石灰沈着性腱板炎例6名、肩鎖関節炎例4名、肩関節前方関節唇損傷例2名、肩甲下筋腱炎例2名、上腕骨大結節部骨折例1名であった。
【考察】1. 系統発生学的中間位
系統発生学的中間位とは以下の通り定義している(有川)。両側の軟骨面が最大に接触している位置・関節包が全面で緊張の差がない位置・関節周辺の靱帯も全面で緊張の差がない位置・関節の遊び(Joint Play)が出やすい位置・瞬発的で強力な運動が発揮しやすい位置
人間の肩関節の系統発生学的可動域は本来、屈曲・外転60~120度の範囲であると考える。
2. 上腕骨頭の前上方偏位の発生機序
多くの器質的障害による肩関節制動症は最初に棘上筋機能障害惹起疾患が起こり棘上筋機能不全が生じると肩関節挙上の際、三角筋がパワフルに働き、上腕骨頭の前上方偏位が生じると考える。更に、上腕骨頭の前上方偏位が非整復処置状態にて肩関節挙上を上腕二頭筋長頭腱が代償することになる。その結果、上腕骨結節間溝部で上腕二頭筋長頭腱は前上方に偏位している上腕骨頭に常にぶつかり、上腕二頭筋長頭機能障害惹起疾患を引き起こすと考える。
【結語】器質的障害による肩関節制動症は上腕骨頭の前上方偏位を改善し、系統発生学的視点に基づいた整形理学療法を行う事により医原性の肩関節制動症を作る事なく改善できると考える。
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