近年, 中国経済は目ざましい発展を遂げているが, それとともに人間活動に伴う化学物質による環境汚染が懸念される。本研究は汚染されている中国の北東部にある渤海に着目し, その沿岸域の都市である大連, 青島, 煙台, 天津及び庄河で採取した魚類, 貝類中のダイオキシン類を測定し, 濃度レベルを明らかにするとともにその給源について検討した。その結果, 大連で採取した魚類のTEQ値は日本沿岸の魚貝類より低かった。他方, これらの地域で採取した貝類のTEQ値は日本の沿岸で採取した貝類と同レベルであった。魚類のPCDFs異性体パターンは貝類と異なっていた。魚類より代謝能力の弱い貝類には2, 3, 7, 8-PCDFsとともに, 非2, 3, 7, 8-PCDFsもより蓄積していたことに対し, 魚類には2, 3, 7, 8-PCDFsに比べて, 非2, 3, 7, 8-PCDFsの割合が極めて低かった。非2, 3, 7, 8-PCDFsのほうが魚類によってより代謝されやすいことを示唆している。魚貝類中のPCDDsのTEQへの寄与率について, 2, 3, 7, 8-TeCDDと1, 2, 3, 7, 8-PeCDDが高い寄与率を示した。また, PCDFsのTEQへの寄与率について, 2, 3, 7, 8-TeCDFと2, 3, 4, 7, 8-PeCDFが高い寄与率を示した。さらに, Co-PCBsのTEQへの寄与率に関して, IUPAC #126 PCBの寄与率が圧倒的に高く, Co-PCBsのTEQ値の73~95%を占めていた。
主成分分析の結果, PCDD/DFsの汚染源は主に都市の一般廃棄物の焼却由来と考えられ, PCPの不純物OCDDがPCDDsの給源として寄与していることも考えられる。Co-PCBsの汚染源としてはKC-500に相当するPCB製剤の使用, 漏出などが考えられる。本研究で得られた魚類, 貝類中のダイオキシン類濃度は低レベルであった。しかし, 今後, 渤海沿岸域での産業活動がさらに活発化すると, 魚類, 貝類中のダイオキシン類の汚染レベルは上昇することが考えられる。
抄録全体を表示