1.はじめに
中央アジアの天山山脈を構成するキルギス山脈では,近年の温暖化の影響により,多くの
氷河湖
が存在する(Janský et al., 2010; Daiyrov et al., 2022).この地域では,短期間で形成と消滅する短命
氷河湖や変動を繰り返す不安定な氷河湖
が多く確認されている.これらはたびたび
氷河湖
決壊洪水を引き起こすため,
氷河湖
のモニタリングは重要な課題である(Narama et al., 2010, 2018; Kattel et al., 2020; Daiyrov et al., 2022).しかしながら,長期間の氷河縮小と最近の
氷河湖
形成の動向については十分に把握されていない.そこで本研究では,Corona KH-4,Landsat(7,8,9,10),Sentinel-2,PlanetScopeなどの衛星画像を用いて,キルギス山脈における1968年~2021年の
氷河湖
の動向を調べた.さらに,最近の
氷河湖
形成と氷河縮小との関係も考察した.
2.手法
キルギス山脈において,1964年と1968年に撮影されたCORONA KH-4衛星写真を使用して,この時期の
氷河湖
と氷河のポリゴンデータを作成した(図1).さらに,1990年~2010年 の Landsat 7/ETM, 2010年~2021年 の Landsat8/ OLI,2016年~2021年 の Sentinel-2, 2016年~2021年 の PlanetScopeの衛星画像を用いて,2000年頃,2020年頃の
氷河湖
と氷河のポリゴンデータを作成した.1964年と1968年の
氷河湖
の不明瞭な部分については,CORONA KH-4オルソ画像から作成したDSMを使用して,湖表面の傾斜10度以下であれば水域が存在すると仮定し,水域を検出した.さらに,
氷河湖上の影や積雪で氷河湖
の境界が不明瞭な場合はデータから除外した.
氷河湖
面積は,>100m
2のみの
氷河湖
を取得した.
3.
氷河湖
の数と面積の変化1968年と2000~2021年の時期に,キルギス山脈中央部で最多の
氷河湖
が確認された.キルギス山脈では,1968年には417の
氷河湖
が存在したが,そのうち2000年頃までに305の氷河が消滅した.残った112の
氷河湖
は大きな面積変動を示すものもあったが,2000年代以降も継続的に拡大した.2000年頃~2021年には543の
氷河湖
が確認されたが,このうちの79%は新規に出現した
氷河湖
であった.
氷河湖
の総面積は1968年の0.87km
2から2021年には5.21km
2に拡大した.また,
氷河湖
の56%は小規模(0.0001~0.001 km
2)であった.
氷河湖
の総面積の拡大とともに,標高3500m以上の
氷河湖
の高度分布で出現頻度が高くなった.調査地域では,氷河前面に埋没氷を含む岩屑地形であるモレーンコンプレックスが形成されている.
氷河湖
は,1968 年に氷河に接触した湖 (161),接触していない湖 (98),サーモカルスト湖 (158) の 3 種類の
氷河湖
が確認された (図 3).3 つのタイプの湖はいずれも不安定な変動を示し,約50 年間でタイプが変化するものも確認された.
4.氷河面積の変化
氷河湖
の動態と氷河縮小の関係を理解するために,氷河面積の変化を調べた.キルギス山脈では,1968年の氷河面積は374.3 km
2で,2021年の総面積は292 km
2であった.氷河面積は約50年間で30%減少した.キルギス山脈の中央部の氷河面積は 71%であり,西側と東側はそれぞれ 19% と 9%であった.中央部では,氷河が集中しているにもかかわらず,中央部の氷河面積の減少(27%)は東部(40%)や西部(36%)に比べて小さかった.
5.氷河縮小と
氷河湖
形成の関係約50年間で30%の氷河面積の減少が確認されたが,
氷河湖
数はわずかに増加しただけだった.しかしながら,現在の
氷河湖
の8割は2000年頃以降に新規に出現した
氷河湖
であり,
氷河湖
は氷河縮小とともに継続的に維持されないことを示した.さらに,
氷河湖
面積が1968年から約50年間で5倍になっており,明らかに
氷河湖
面積が以前より拡大していることを示した.これら変化の要因として,氷河縮小だけでなく,モレーンコンプレックスの埋没氷の融解による凹地の発達とサーモカルスト湖の増加が関係しているものと考えられる.さらに,モレーンコンプレックスの地形変化は,
氷河湖
面積の季節変動を増加させた.このように,キルギス山脈における
氷河湖
の動態は,氷河縮小とモレーンコンプレックス内部の氷の融解が引き起こした結果であると考えられる.
抄録全体を表示