目的 : 根管充塡に用いるガッタパーチャポイントには壁着性がなく, 根管充塡用セメント (シーラー) が併用されている. しかし, 臨床で使用されているシーラーには, 組織為害性を有し, 根尖孔外へ溢出した場合, 根尖性歯周組織疾患を発症させるだけでなく, 根管充塡後の治癒を妨げるものもある. そこで本研究では, 生体組織に無刺激で, 親和性を有するα-TCP/Te-CPセメントに着目した. しかし, 本セメントにはシーラーとして具備すべき所要性質であるエックス線造影性がない. そこで, 造影成分として酸化ビスマスを配合したα-TCP/Te-CPセメントを作製し, 各種条件にて練和したセメントの理工学的性質, 硬化挙動を調べ, さらに色素浸透性および組織為害性について病理組織学的に検討し, シーラーとしての有用性を評価した.
材料と方法 : 炭酸カルシウムと第二リン酸カルシウム二水塩を基材としてα-TCP/Te-CPセメントを作製した. 酸化ビスマスを30wt%配合したものがキャナルス (CaN) と同程度のエックス線造影性を示したため, 粒子径25μm以下に調整し配合した. 練和溶液は, リン酸二水素ナトリウム水溶液 (P) およびコンドロイチン硫酸ナトリウム水溶液 (C) を用いた. 理工学的性質としてセメントの稠度, 被膜厚さ, 硬化時間を測定し, 練和泥のpH, エックス線回折解析, 走査電子顕微鏡観察により硬化に関与する固相の検討を行った. また, ヒト抜去歯を用いた色素浸透試験より根尖部封鎖性の確認, さらに, ラット頭蓋骨内にセメントを塡入し, 病理組織学的評価を行った.
結果 : 稠度はすべての条件でJISを満たした. 被膜厚さではCの一部の条件がJISを満たした. 硬化時間は長いもので423分, 短いもので55分であった. pH挙動は練和液のpHに依存していた. Pの一部は硬化に伴いアパタイトの移行が認められた. 色素浸透試験では, 一部を除くすべてのセメントにおいてCaNと同程度の封鎖性を示した. 病理組織学的評価においては, CaNと比較しすべての試料において組織傷害は認めなかった.
結論 : 造影剤として酸化ビスマスを配合したα-TCP/Te-CPセメントをコンドロイチン硫酸ナトリウム水溶液で練和すると, 硬化に伴うアパタイト形成は認めないものの, 理工学的諸性質を満たし, かつCaNと同程度の根尖部封鎖性を有しており, またラットを用いた生体実験においても, 塡入14日後では骨様硬組織の形成を認めたことから, シーラーとしての有用性が示された.
抄録全体を表示